161:『例外的に』


(※Twitter未公開・学生パロ)


授業で返却された小テストの答案を見て、一騎は悔し気に眉を寄せ溜息を零す。
あと一問正解していれば満点だった。
人気のない放課後の屋上で、ゴロリと仰向けになりバツが付けられた箇所を眺めていると、不意に隣から伸びてきた手に答案用紙が奪われる。


「英単語はただ文字を記号として捉えずに、ちゃんと意味と絡めて覚えた方が早い」

「分かってるけど、覚えたと思ってもすぐに忘れるから困ってるんだろ…。そもそも『例外的に』なんて単語そうそう使わない」


学年首席である総士からの有り難いアドバイスではあるが、実はこの英単語を間違えるのは今回で三度目。
どうにも情けなさが勝ってついふて腐れてしまう。


「なら忘れない様に記憶に深く結び付ければ良い」

「どうやって?」

「こうやって、I kiss you exceptionally now.」


流暢な発音が聞こえたと同時に、見上げた視界いっぱいに総士の顔が近付いてきて、唇に柔らかい感触が触れて離れた。


「なっ!総士、お前何して…ッ」


思わず唇を押さえ驚いて総士を見れば、綺麗な笑顔でこう返された。


「ほら、これなら忘れられないだろ?」




(補足:I kiss you exceptionally now.→僕は今から例外的にお前にキスをする)





162:『隣との距離』


(※Twitter未公開・移送キャンプにて)


隣に居る事が当然で互いの定位置だった。それは息を吸うのと同じくらいに、総士と一騎にとっては自然で当たり前の事だ。
だが派遣部隊として島の外へ出てキャンプ地で過ごしていると、少々好奇の目を向けられている事に気が付いた。
無論、此処では自分達の方が外国人なのだから物珍しさもあるだろうが、それにしては随分と不躾な視線を感じる。
一騎は不思議に思いミツヒロに尋ねてみた。


「一人で居る時はそうでも無いんだけど、総士と居ると凄くジロジロ見られてる気がするんだ」

「それは…」


ミツヒロが気まずそうにどう言えば良いのか言葉を選んでいると、横から割り込んできたビリーが口を開く。


「それはマカベとミナシロは片時も離れず何時も隣に居るし距離が近すぎるから、二人はデキてるのかって噂になってるんだよ」


ビリーの軽い口をミツヒロは慌てて塞ぐが時既に遅し。しかし恐る恐る一騎を見るとキョトンと不思議そうに首を傾げるばかりで、まるで伝わっていない様子だ。
これにはミツヒロもビリーも思わず声を揃える。


「「もしかして、無意識であの距離感なの(か)!?」」




(補足:ビリーとミツヒロ初めて絡ませてみました(*´∀`*)ビリーもミツヒロもアイちゃんも大好きなので、もっとこんな風なほのぼの平和なお話し妄想したいです♪)





163:『日常崩壊』


(※Twitter未公開・現パロ+監禁)


日常なんてものは案外あっさりと崩れ去るものだ。
目を覚ますと一騎は見知らぬ場所に居た。
床も壁も天井も染み一つ無く真っ白で、置いてある調度品や家具、寝かされているベッドまでも、何もかもが真っさらな純白。
見渡す限り白一色のその部屋で、チャリッと金属音が鳴り音がした足元を見ると足首が鎖で繋がれていた。


(…ッ…何で…誰が…)


その状況が意味する言葉に顔を真っ青にしているとガチャリとドアが開く。
肩を跳ねさせ怯えたのはほんの一瞬で、入ってきた相手を認識した瞬間、一騎は全てを理解しとろりと恍惚に染まる笑みを浮かべた。


「総士、やっと俺を捕まえてくれるんだな」


甘く甘くうっとりした声に応える様に、総士は一騎の傍へ寄り抱き竦める。
まるでその全てを囲い縛り付けるみたいに…


164:『笑わないで聞いてね』


(※Twitter未公開)


一騎へ


笑わないで聞いて欲しい。

僕は最後までお前と共に生きて、お前と共に人間として死にたかった。


…なんて未練を手紙に認めて(したためて)みたけれど結局は破り捨てたし、唯一ニヒトに記録した音声ファイルにも、一騎に向けての言葉は遺さなかった。
笑わずに聞いてくれだなんて、僕の未練をお前が笑うはずがないのは理解している。
むしろきっと泣くのが分かっていたから、こんな言葉は聞かなくて良いんだ。
だからどうか笑っていてくれ。
僕にとって穏やかで温かな優しいその笑みに、どれだけ救われてきただろう。
この先の未来でお前が変わらずに微笑んでくれるなら、こんな未練はきっと些細な事だ。


そうだろう?一騎…


165:『ああ、幸せ。』


(※Twitter未公開・平和な世界軸パロ)


緩やかな眠りからゆっくりと目を覚ましたらしい。開かれた瞼からはとろっと蕩けたアンバーの瞳が姿を現す。
寝ぼけたままシーツに鼻先をくっつけ、恐らく僕の移り香のするそれを無意識にスンッと嗅いで安心した様に一騎が吐息を零した。
そうして布団の中でモゾモゾしながら、ゆるりとコチラに視線を寄越したので腰を引き、二人で横になったまま優しく額をくっつけ目を合わす。


「おはよう一騎。幸せな夢は見られたか?」

「よく寝た。良い夢だった……たぶん」

「多分?」

「だって夢の中の幸福より、目が覚めて総士が側に居る現実の方が俺にはずっと幸せだから」


166:『喋っちゃだめだよ』


(※Twitter未公開)


そんなつもりは無かったのだと、これだけは言い訳させて欲しかった。
不運と言う他ないし、無防備過ぎる相手につい身体が動いてしまっていたのだ。
隠し押さえ込んでいた劣情を御し切れなかった己の未熟さとも言える。
同性の幼なじみ…、誰よりも親しい親友に抱くには行き過ぎた感情が、こんなにも自分を蝕んでいたのかと、何処か他人事の様に総士は眼下に広がる光景を見遣る。
自分のベッドに散らばる黒髪、微かに震える唇が小さく開き…


「…そう…し…ッ!?」


名前を呼ぼうとしたそれを軽く指先で止めた。
驚きでこぼれ落ちそうな程に見開かれた榛色の瞳と目が合う。


「喋るな、一騎。今の僕は何が引き金になってお前を襲うか分からない」




(補足:理性と戦い過ぎて身体が勝手に動いちゃった結果。ベッドに一騎を押し倒しながらも更に理性と戦おうとする総士だけど、多分この場合の一騎さんは無自覚天然無防備さんだから、きっと彼の理性ふっ飛ばす位に可愛い失態を侵して見事に総士に美味しく頂かれる未来しか見えないですWww)





167:『お気に召すまま』


(※Twitter未公開)


一騎は総士の言う事なら大抵何でも受け入れてしまう。
昔は左目を傷付けた負い目から従属的だったが、今は心から望んでそうしている様に見受けられた。
勿論ここに到るまでにすれ違い、多くの対話を重ね絶対的な信頼を築いたからこその関係だと自負している。
それでもほんの少し、『一騎ならば自分を分かってくれると思っていた』なんて、もしかしたらあの頃の自分の願望を一騎が叶えようとしているんじゃないかと思う事がある。と、一騎本人に聞いてみた。


「考え過ぎだ、総士」


呆れた様に微笑みながら一騎が緩く首を横に振る。


「そう言う総士だって俺に甘いだろ?それと同じだよ」

「そんな事は……、無くも無いな。お前は聞き分けが良すぎるから少し甘い位が丁度良いと判断している」

「ッ、…不器用にデレるの反則だと思う」


真顔で返した言葉に一騎が少し悔し気に総士の耳元へ唇が寄せた。


「甘え下手なのは総士の方が酷いだろ。俺は俺の意思で総士の言う事は何だって分かりたいし、誰よりも受け入れたくなる。それに、もっとお前に俺を好きになって欲しいとも思ってる。だから…」


だから、『お前の、お気に召すままに』なんて囁かれて理性を保てる人間がいるなら、総士はお目にかかりたいと思わずにはいられなかった。



(補足:総士の理性を無自覚でぶった切る系男子な一騎(笑)総×一ちゃんもっとイチャイチャさせたい人生です。)





168:『いとでんわ』


(※Twitter未公開)


音と言うのは空気を伝わって耳に届く。
そして空気以外でも音を伝えてくれるものは存在する。

例えばこの糸電話。

糸は固体であり気体である空気より音を伝えやすい性質を持っている。
空中の音は途中で霧散してしまうが、固体を伝う音はより鮮明に響く。
しかしそれにも条件がある。糸は常にピンっと張っている事が重要だ。弛んでいたり途中で摘まんでいると音は伝わらない。
つまり、音は何かを振動させ伝わっている。


「分かるようで分かんない。説明が難しい…」


耳元に響く総士の声を聞きながら、一騎は遠く離れた場所にいる総士を苦笑いしながらチラリと見る。
お互いの手には糸で繋がった紙コップを持っていた。
糸電話しながらその原理を真面目に説明している総士に手を振り、今度はコチラが話すと合図すれば総士が耳元に紙コップをあてる。
仕組みについてはよくわならないけれど、遠くにいてもこの声が伝わると言うのならば…


「大好きだ、総士」


コップの底へそう囁いた。
ほんの悪戯心。「何を馬鹿な事を言ってるんだ」と呆れる顔が想像出来て、ついからかってしまった。しかし、そんな返事を期待して耳に当てた紙コップから返答は無い。
だが次の瞬間、遠くに居たはずの総士が、紙コップを床へ投げ捨てコチラに向かって足早に歩いて来た。


「え、ちょっ…総士?」


すぐ目の前まで来た彼は僅かに頬を染め、眉間に皺を寄せ照れが混じる複雑そうな顔で口を開く、


「一騎、そういうのは糸電話越しじゃなく僕の耳元に直接言ってくれないか」


169:『アリアドネの糸』


(※Twitter未公開)


夢を見たらしい。細い細い糸を手繰り寄せて深い迷宮の出口を目指す夢だったそうだ。


「まるでアリアドネの糸だな」

「アリアドネの糸?」


夢の内容に総士から発せられた言葉を一騎が辿る。


牛の頭に人の体をした恐ろしい巨体の化け物。それを封じるために作られた複雑怪奇な迷宮に、生贄として集められた少年少女。
化け物を退治するため現れた英雄を見初めた王女アリアドネは、彼が迷宮から無事帰れるよう糸玉を渡す。


「迷路に迷わず無事帰ってこられる様に、彼女は英雄に道標の糸を授けた」

「じゃあ、俺のアリアドネは総士って事だな」

「何故そうなる…」

「だって糸を辿った先にはお前が居て、そこで夢から覚めたんだ」


予期せぬ夢の終わりに妙な気恥ずかしさから総士は苦々しく眉を寄せ、


「僕ならそんな糸を渡して帰りを待つだけなんて効率の悪い真似はしない。もっとお前の生存率を上げるための作戦や武器の手配にバックアップは惜しまない。可能ならば自ら一緒に戦闘に赴く事だって…」


そこまで言ってたかが夢の話にムキになっている自分に気付いたらしい総士は、気まずさで口を閉ざす。
チラリと視線だけで隣を見遣れば、一騎は何も言わないけれどそれはそれは嬉しそうに笑んでいた。


170:『ドーナツ・ホール』


(※Twitter未公開)


ジュワッと油が鳴って香ばしい匂いが広がった。
こんがりキツネ色になったものを掬い上げ、揚げたてのドーナツに軽く砂糖を塗す。
出来立て熱々でサクサク。形も揚げ具合も申し分ないそれを、コーヒーと共に総士へ振る舞う。
対して、一騎が自分用にと確保していたドーナツは、形も歪で不格好。
すっかりと冷めてしまっているそれは、まだ油の温度が不十分だった状態で揚げてしまった失敗作。
それをを口に含もうとして、その手首を総士によって捕らえられた。


「一騎、ドーナツの穴は空虚か?それとも存在しているか?」

「へ?」


いきなり問われた言葉の意味が分からず思いっきり間抜けな声が零れた。
ドーナツの穴が空虚か存在しているか…なんてそんな事を聞かれても困ってしまう。


(そもそもドーナツの真ん中は何もない空間なんだから空虚?あれ?でも、俺はちゃんとドーナツの真ん中に穴が「ある」と思っているから存在?)


ぐるぐると考え過ぎて一騎の頭はこんがらがってきた。


「ドーナツの内にある境界線。この区切られた丸い空間を存在するかしないか意味を与えているのは、人間の認識と概念だ。視覚情報としての分析手段の一つとも言える」

「総士、お前が何を言いたいのか分からない」


すると総士は一つ溜息を零し、一騎の手首を引き寄せ不格好で冷めたドーナツにかじりつく。さらに自分の手元の綺麗なドーナツを一騎の口にくわえさせた。


「冷めて形が歪つでも僕にとっての重要な認識と概念は「お前が作った」と言う事実であって、多少の形の良し悪しは、それこそドーナツの穴の有無程度に取るに足らない問題だ。それに味だって悪くない」

「ごめん、やっぱりますます良く分からないけど、つまり美味しかったって事か?」

「ああ」

「そっか、なら良かった」




(補足:当然の様に失敗作を自分が食べようとした一騎に「お前が作った物なら僕は何でも喜んで食べるさ」って言いたいだけなのに、不器用過ぎて小難しくややこしい事しか言えない皆城さん可愛いね♪って言うか、一騎本当に良妻ってお話しです(笑))