「駄目だ、総士…」
拒む手を捕まえ引き寄せた。
一騎の華奢な手首を掴んだまま、唇が触れそうな程に近付き覗き込む。
羞恥で震える睫毛と不安に揺れる瞳、戸惑いに悸く口許にほんのりと染まる頬。
何故人は駄目だと言われる程欲してしまうのだろうか?
「お願い、許して」
なんて、か細い願いを聞いてやれるはずもない。
「すまない、諦めて大人しく降参してくれ」
(※Twitter未公開)
『一騎!よせ!一騎!一騎ーッ!!!』
あんなにも声を張り上げて叫んだのに、一騎はその声に僅かばかり意識をこちらに向けただけで、総士の願いを聞いてくれなかった。
スルリと、何が手からこぼれ落ちて離れて行ってしまった様な、焦燥や切なさ無力感に憤り…
色んなモノがないまぜになった感情が総士の胸中に吹き荒れる。
いつも遠くを見る様な目をして、フワフワと何処か覚束ない様子の一騎に、何と無くの予感は感じていた。
それでも最後まで自分の声ならば届くと思いたかったのだ。
こんなに近くに居て互いを必要としながらも、自分達は永久に交わらない定めだったなんてそんな事、絶対に認めたくはなかったから…
(※Twitter未公開)
雨の日の一騎には悪癖がある。
「お前、傘はどうしたんだ?」
またか――、と総士はこれでもう通算何回目になるのか分からない質問を、一騎に対して投げ掛ける。
「途中であげちゃった。急に雨に降られて困ってるみたいだったから」
そう答えた当の一騎はびしょびしょだった。
服は雨を吸って重く肌に張り付き、黒髪は濡れてポタポタと雫を落とす。
そうしてフルリと寒さに震えながら、濡れたままの身体で総士へと抱き着いた。
「総士、寒い…温めて?」
雨の日の一騎には悪癖がある。
濡れた寒さを理由に総士を訪ね、身体を重ねたがるのだ。
だからいつも(わざと)傘を人にあげてしまう。
(※Twitter未公開)
生まれ直したそれはきっともう僕だとは呼べないだろう。
例えこの記憶や想いを引き継いでいたとしても、僕と言う存在はここでリセットされるのだ。
けれど永遠を生きるお前を一人ぼっちにさせるよりかは、多分…少しばかりはマシなのかもしれない。
僕がお前を幸せにする事は、僕がお前と愛し合う事は、もう永遠に無い。
そのことが悲しくもあり、切なくもあり、悔しくもあり、そしてこれから先、生まれ変わり続ける僕への嫉妬。自分に嫉妬なんておかしいだろうか?
でも僕は確信している。
例えこの先何度生まれ直そうとも、僕達が好きになるのはきっと「お前」ただ一人なのだと。
「だから一騎…、もう一度恋をしよう。何度でも、永遠に」
(※Twitter未公開)
どうせ叶わないのならせめて目茶苦茶に傷付けて欲しかった。
隙間無く無残にお前と言う存在を刻んで突き立てて引き裂いて欲しい。
もう一生、二度と治らない傷口が欲しいんだ。
そうすれば傷が痛み続ける限り、俺はお前のものだと思い込んでいられる。
そんな事を言えば総士は酷く辛そうな顔をするだろうし、きっとどれだけ俺が望んでもそれを叶えてはくれないだろう。
お前がくれるのはチクリと小さな棘が刺さったみたいに、頼りなく弱々しいのに絶えずジクジクと疼いて、いつかそれに馴れてしまいそうな曖昧な痛みだけだった。
「どうせなら、とびっきり痛い方が良かった…」
――なんて、泣きながら言う台詞じゃないか…
(※Twitter未公開)
まず青いペンと絆創膏を用意してください。
ペンで手首に相手の名前を書き、その上から絆創膏を貼ります。三日後にそれを剥がしながら心の中で謝れば、貴方の願いは叶うでしょう。
「怪我でもしたのかと思ったら、何で僕の名前が?」
手を取られ強引に外された絆創膏に、一騎は死にたい位の恥ずかしさでいっぱいだった。
不機嫌プラス怪訝そうな視線が、一騎の手首に書かれた「皆城総士」と言う青い文字へ注がれている。
直ぐにでも振り払って逃げ出してしまいたかったけれど、思いの外ガッチリと捕らえられて叶いそうにない。
「で?これは何だ、一騎」
言い逃れ出来ない状況に一騎は渋々唇を開いた。
「お、おまじない…」
「おまじない?」
「教えて貰ったんだ…、仲直り出来るおまじない…」
気まずそうに俯き情けなさでいっぱいになっていると、不意にクスッと笑い声が漏れ、それまで刺々しい雰囲気だった総士の態度が一変した。
不思議に思い一騎は首を傾げる。
「実に良く効くおまじないだな」
「総士?」
「仲直り、するんだろ」
喧嘩してから三日。
ようやく二人は目を合わせ、面映ゆそうに互いに笑顔を浮かべた。
(※Twitter未公開)
すうすうと寝息をたてる小さな子供を腕に抱く。
特有の高い体温は一騎の肌を伝わり、その存在を確かに教えてくれた。
愛おしみを込めて薄い色の髪を撫でながら、一騎の脳裏にふっと声が過ぎる。
『人類が知る限り、この宇宙で存在が無に飲まれても、存在した情報は失われない』
あの時、総士が言った言葉を一騎は殆ど理解出来なかったけれど、今なら少し分かる様な気がする。
「例え、お前と言う存在が無に還っても、お前が存在したって言う事実は無くならない。確かに俺の中にも残るんだろ?永遠に…」
そう、あの時、一騎は預けられたのだ…
皆城総士と言う存在が「いた」と言う事実と、生まれ直したこの幼い総士と言う存在を。
いつか祝福を果たした先で再び出会うその時まで。
「だから、ちゃんと守らなくちゃな。お前がいた証」
総士からの祝福は苦しくて切なくて、淋しくて悲しくて、痛みを伴っていたけれど、一騎の心は凪いだ水面の様にただ澄んだ愛おしさで溢れていた。
(※Twitter未公開)
カタカタと忙しなく端末のキーを打ち込む音が響く。
仕事に没頭しているといつの間にか時を忘れてしまう。
自分の中の時間の感覚が曖昧になって、何と無く目の奥が痛む様な、肩が凝り固まって張っている様な、そんな気がしなくもないが、まあ気のせいだろうと作業を続行した。
不意に僅かにずり落ちた眼鏡のブリッジを指の腹で押し上げ、再び総士が液晶に目を向けたその時…
「そこまでだ。お前は完全に包囲されている、今すぐ両手を挙げて大人しくしろ」
と、クスクス笑う声と共に、背後からフワリと腕を回され、一騎に抱きしめられた。
「随分と熱烈な包囲網だな。で、そちらの要求は?」
「休憩と食事、それと俺を構うために作業の中断…かな?」
「成る程、極めて重大だ。無条件降伏しよう」
総士はその要求を受け入れるべく、両手を挙げて降参した。
(※Twitter未公開・一総?)
覚醒と同時、掛布を蹴り飛ばすみたいにして飛び起きた。
見開かれた瞳、荒い呼吸、上下する肩、冷や汗をかいて首筋へ張り付く髪が気持ち悪い。
嫌な夢を見た。自分だけが何処か遠くへ消えてしまう、そんな夢だった様な気がする。
しかしそれは目覚めと同時にその形を霧散させ、総士の記憶の奥底へと沈んでしまったのだ。
「…どうしたんだ、総士?」
フッと隣を見ると眠た気な瞼を擦り、総士を見上げてくる一騎の姿があった。
その事に大きな安心感を覚え、総士はホッと安堵の吐息を零す。
「怖い夢でも見たのか?」
「…いや、良く思い出せない」
釈然としない不快感だけが残り総士が憮然とした表情を浮かべていると、半身をゆっくり起こした一騎に柔らかく抱きしめられた。
「一騎?」
「また悪い夢を見たら俺を呼んでくれ、絶対に総士を助けに行くから」
「夢の中にか?」
「うん、夢の中に」
そのやり取りに気が抜けて、クスクス互いに笑ってしまう。
確かに一騎なら悪夢だってこじ開けて、簡単にやっつけてしまいそうだ。
(※Twitter未公開)
外からやってきた一騎の身体は冷たい空気に晒されて、抱きしめるとひんやりとしていた。
黒髪から僅かに外気の残り香がは凍てつく冬の香りがする。
「寒かっただろう?」
「うん、雪なんて久しぶりだ」
腕を緩め顔を見詰めると、寒さで真っ白な顔色に少し血色が悪くなってしまった一騎の唇を見て、どうやって暖を取らせるかを総士は思案する。
空調は温かく設定してやったし、やはりここは熱い飲み物でも用意するべきだろう。
「珈琲を入れやる、少し待て」
そう思い行動しようとした総士の服の端を、一騎は冷え切って微かに震える指先で引っ張る。
「総士、お風呂貸して欲しい」
「ああ、成る程」
確かに冷えた身体を温めるには1番効率的な選択だ。
すぐに湯が使える様に準備してやろうと、今度こそ歩を進めかけた総士をまたも一騎は震える指先で制する。
「一騎?」
「あ…うん、あのさ…お風呂に…」
「だから準備してやる」
「いや、そうじゃなくて…その…お風呂、総士も一緒に入らないか?」
うっすらと一騎の耳が赤く染まったのを見て、彼の指先がただ冷えて震えていただけじゃなかった事に総士はやっと気が付いた。
(補足:この後めちゃくちゃお風呂でぬくぬくイチャイチャした(笑)ウチの総×一ちゃんは話しによって総士が生真面目やや鈍感タイプだと一騎がとても積極的に進化し、総士が積極的だと逆に初で恥ずかしがり屋一騎になるのは完全に管理人の性癖ですWww)