想いは目に見えないから、時には行動で表現する必要がある。
だから総士は隣に居る一騎の手を盗み見て、触れようと手を伸ばし引っ込める。
先程からそのもどかしい躊躇いをただ繰り返していた。すると、
「総士」
「どうした?」
「あのさ、手…繋いでも良いか?」
その様子に自分の行動が悟られたのだと思わず目を逸らす。
「…ああ、問題ない」
冷静さを装うも、頬を淡く染め総士はそっと一騎の手を握った。
(※一総)
喧騒から逃れ物影に引き込む。
衝動のまま首に手を回し顔を引き寄せ、踵を僅かに浮かせ唇を重ねた。
形の良い総士の薄い皮膚を軽く食み、角度を変えもっと深く貪ろうとすれば、やんわり肩を押され制される。
「ッ…ここでこれ以上は駄目だ、一騎」
そう言われ一騎は総士の腕を再び引く。
ここじゃない何処かへ二人で駆け出す。
勢い良く伸ばさた手が壁を叩く様に触れた。退路は絶たれ反対へ逃げ様とするも、指で顎を掬われ無理に視線が交わる。
困惑に滲む鳶色の双眸は力無く地に落ちた。
「一騎、何故僕を見ない?」
総士に問われるも言えるはずがない。
(今、お前…俺をどんな欲情した目で見ているか分かってるのか?)
なんてそんな事…
「一騎を甘やかす権利が欲しい」
真面目な顔で言われてつい押しに負けた結果。
「さあ、甘えてくれ」
「そんないきなり言われても…」
困り果てていると、先日見た母親に甘える美羽の姿が一騎の頭に浮かんだ。
「えっと…総士、…抱っこ…」
照れが混じるも手を伸ばし首を傾けて見せた瞬間、総士が打ち震えながら床に崩れ落ちた。
解せない…
(※補足「ママ、抱っこ!」のノリで、斜め上の方向から一騎が甘えてきたら撃沈するよねって言う妄想(笑)
重ねあった柔らかな唇。透明な雫を互いに混ぜては何度も交わす。
呼吸は乱れ、酸素が不足した頭は朦朧としていて、息が苦しいと一騎が背を叩いて訴える。
そんなキスをする度に総士は漠然とこのまま貪ってしまえば、同化するよりも激しく彼と一つになれるんじゃないかなんて…。そんな事を考えてしまう。
「一騎、僕が持とう」
そう言って総士は傘を奪った。
一騎に持たせると総士にばかり傾けて、彼の肩が濡れてしまうから。
しかし暫くすると、
「総士、俺も持つよ」
そう言って一騎は自分の手を重ねた。
総士に持たせると一騎にばかり傾けて、彼の肩も酷く濡れていたから。
一つの物を平等に共有すると言うのはなかなかに難しい。
壁へ追い詰めその脇に手をつく。
つまりは相手より、余裕だとか優位にあるはずの行動だ。
なのに…
「で?それだけか?」
壁を背にした総士は到って冷静に切り返す。
「ッ、総士、その…」
「詰めが甘いな一騎」
首元のスカーフを引かれ唇が重なり理解した。
追い詰めていたんじゃない、追い詰められていた事に。
038:「深く溺れてしまう前に」「無意味な嘘」「風音の言伝」を使って世界の終末の話 |
風音の言伝に聞いた。
どうやら世界は終わってしまうらしい。
「怖いんだ。恐怖に深く溺れてしまう前に、お前に俺を終わらせて欲しい」
「一騎、何故そんな無意味な嘘をつく?」
「嘘?確かに嘘かもしれない。でも無意味じゃない」
どうせいなくなるのなら、彼のその手で終われる事にこそ、深い意味と幸福があった。
(※補足、三つのお題を140文字に入れてSS作ると言う縛りだったんですけど、よく意味が分からない事に…)
039:『寝ている相手の髪をいじっている真壁一騎』 |
(※一総)
自分の一部な気がして切る気になれない。
切り離してしまえば、例え自分の一部だったモノもすぐに汚れて死んでしまうから。
一騎は側で眠る総士の髪を一房掬う。
長く美しい亜麻色の髪。
「でもきっと総士のなら、例え切り落ちた物でも俺は後生大切にするんだろうな…」
苦笑混じりにそっと引き寄せた毛先へ口づけた。
040:『ごめんなさいって言われると意地悪したくなっちゃう』 |
(※ショタ総一)
「ごめん…」
素直に謝る一騎を困らせたくて意地悪をする。
「駄目だ、許さない」
その一言に鳶色の瞳に涙が浮かぶ。
「ふっ…ぇ…」
泣かせてしまった罪悪感はあるが、気を引きたくて仕方ない衝動を抑え切れない。
「一騎がずっと僕と一緒にいてくれないと、絶対に許さない」
きっとこれは幼い独占欲。