手軽な物で済ませたり、放っておくと平気で食事を抜く。
だから自分がしてあげられる事はしてあげたい、なんて言い訳を上げ連ねても心中で引っ掛かかる小さな刺。
アルヴィスの職員に総士が最近よく食事の誘いを受けるらしい。
だから近頃彼への出前が頻繁な理由…
(誰にも渡さない)
なんて…ただのヤキモチ。
(『誰にも渡さない』の続き)
特に他意は無かった。
ただ最近よく食事に誘われるものだから、恐らく自分の不摂生ぶりを見兼ねられているのだろう。
自戒のつもりで一騎に話したに過ぎなかったのに。
「総士、出前」
「ああ、いつもすまない」
近頃、頻繁に彼から出前が増えて総士は少し浮かれている。
『こんなにも愛されている』のだと。
(『こんなにも愛されている』の続き)
「念のために言っておくが、不安に思わせたかった訳じゃない」
「うん、知ってる」
「僕は他に余所見している時間も余裕もない」
「それも知ってる」
不器用で分かり辛いけれど、今はもうその言葉の真意を汲み取れる程には大人になったつもりだ。
「けど、分かってても少し妬けた」
困った顔でただ一騎は微笑む。
友と呼ぶには行き過ぎていた。
恋と呼ぶには根深くて、愛と呼ぶには酷い盲信。
絶対的な感情なんてそれはもう、ただの狂気でしかないのではないだろうか?
「時々考える。俺のこの総士に対する気持ちは何なんだろうって」
大きすぎる感情がいつか君を食い尽くす日がきたら、どうか息の根を止めて欲しい。
(『息の根止めて』の続き)
友情、恋情、愛情、人は気持ちに名を付けたがる。
そうする事で他人と自分の繋がりを明確に位置づけ、規定の枠の中で安寧を得る。
けれどそんなものに果たして意味はあるだろうか?
むしろ名前を持たない強い繋がりにこそ、飲み込まれ溺れてしまいたかった。
だから何も怯えなくて良い。
僕の『愛する臆病者』へ
(『愛する臆病者』の続き)
「僕はお前で、お前は僕だろう?」
「うん」
「ならお前は僕の感情に怯えていると言う事になるな」
「そんな事ない!総士に怯えるなんて今はもう絶対に有り得ない!だって俺の中はこんなにも総士の事でいっぱいなのに!」
「熱烈だな。まあ僕も同じだ」
「え?あっ…い、今のは…その…」
勢いを失い揺らいだ鳶色の双眸を覗き込む。
「今のは…嘘、なのか?」
「あ、…えーと…その…。本当、だったり…する」
(※一騎にょたパロ)
僕にとって彼女は一番厄介な存在だ。
「一騎…、その格好を何とかしろ」
兄妹同然に育ったとは言え、無防備過ぎる下着同然の薄着具合。
リラックスして床に投げ出された白い足に、風呂上がりの濡れた髪が追い撃ちをかける。
「大丈夫。総士しか見てないし」
「僕も一応男なんだが?」
「でも、総士だから」
何でもかんでもない様にへらりと笑う。
まるで危機感を持たれていない事を悲しむべきか、信頼されていると喜ぶべきか…
「総士、愛される条件って何だろう?」
「そもそも、万人に等しく共通する条件なんてものは無いと思うが?」
「じゃあ、総士が愛したくなる条件って?」
そう問うと総士は暫く考え
「そうだな僕個人としてなら到ってシンプルな条件が一つだけあるが」
「何だよ?」
「真壁一騎であること」
「ッ!?」
「どうかしたか?」
「シンプルと言うかすごく範囲が狭くないか?それ…」
「もう二度と目の前で失いたくは無い」
と一騎は零す。
「また一人置き去りにしてしまう位なら…」
と総士は苦悩する。
置いて逝くのと遺されるのはどちらが辛いのだろう?
きっとどちらも離れ離れで心が引き裂かれてしまうのだ。
ならば、どうか願わくば君の最期に自分も共に連れていて欲しい。
それ以外何も望まないから。
眠る人間は重く感じると聞くが抱き上げた体は酷く軽い。
伸びた黒髪、恐ろしい程白い肌、呼吸を確かめたくて総士は薄く色づく唇へ口付けた途端。
「ん、そうし」
「すまない起こしたか?」
「そうし…、ほら、…出前……ちゃんとご飯たべないと……」
「一騎?」
瞳は閉じられたまま寝息だけが聞こえる。
どうやら夢の中でも出前してくれているようだ。
「なんだ寝言か」
そう呟く総士の口元は優しく微笑んでいた。