(一騎Ver)
起きてみればベッドの中に、見るからに不機嫌そうな猫が尻尾でシーツを叩きながらこちらを見ている。
「猫?何でこんな所に…」
言いかけて隣で寝ていたはずの彼の姿が無い事に気付いた。
だからつい冗談が口を突いて…
「まさかこの猫、総士だったりして」
「みゃー!」
「え?」
「みゃー!みゃー!」
「…え、もしかして、本当に総士?」
「みゃー!」
朝目覚めると総士がネコになっていた。
不意に黄金に発光してしまった左目。
それを隠そうとテーブルの上の眼鏡に手を伸ばしたら、一騎がそれを取り上げる。
「返してくれ、一騎」
「俺の前では必要ないだろ?どんな総士でも隠さなくて良いから」
その言葉に、幼い頃絵本で見た美しい王子が醜い野獣にされてしまった童話が浮かぶ。
この姿をありのまま受け止めてくれるのはお前だけ…
(『受け止めてくれるのはあなただけ』の続き)
その薄紫の瞳はフェストゥムが放つ金の光りを宿す事が稀にある。
彼の体は人の構造とは違うものらしい。
「まるで呪いだな」
「俺は綺麗だと思う」
「人間と違う事より、お前と異なる存在だと言う事実が僕には少し耐え難い」
無表情に言った総士を見てもしも魔法が使えたならば、一騎は今すぐにこの呪いを解いてしまいたかった。
(『もしも魔法が使えたならば』の続き)
「もし俺が恐ろしい姿の怪物になったら総士はどうする?」
発光の治まった左の瞼に触れて一騎は首を傾けた。
「どうもしない。それがお前なら僕はどんな外見だろうが受け入れるだろう」
即答した総士に一騎が微笑む。
「うん、俺も同じだ。どんな姿でもそれが総士なら離れない」
心が満ちる音がした。これは運命だ。
だってこんなの…
互いに好きにならないはずがない。
楽園のキッチンで暉の言葉に首を傾げる。
「噂?」
「昨夜浜辺で総士先輩が、その…、誰かとキスしてたって」
「え、何でそんな噂が?」
「偶然見た人がいたらしくて。遠目で相手までは見えなかったらしいですけど、今島中で噂になってますよ。て…、一騎先輩?」
まさか噂の二人の片割れが、今目の前で赤面してるだなんて思いもしない。
(『噂の二人』の続き)
「極めて深刻な事態だ…」
アルヴィス内の自分の耳に入ってくる位だ、きっと今頃一騎も噂を聞いているだろう。
キスを仕掛けたのは自分だったから、些か罰が悪い。それに一騎に変に拗ねられでもしたら厄介だ。
真顔で有り得ない量と速度の仕事を、並列処理する彼の心を占めているのはただ一人。
君という名の優先領域。
(『君という名の』の続き)
「死ぬ程恥ずかしかったんだからな?」
やや上目遣いで睨まれ、拗ねて頬は軽く膨れ、柔らかな唇が引き結ばれた表情。
気付けばほとんど無意識に、総士は一騎の唇を自分のそれで塞いだ。
「〜〜〜っ!お前全然反省してないだろ、総士!」
「可愛いのが悪いんと思うが?」
しれっと返されて一騎は思う、
なんて身勝手な論理
(※一総?)
「総士、力まれるとやりにくい」
「すまない。初めてで勝手が分からなくて、つい」
緊張で煩い心臓の音。
「大丈夫、絶対優しくするから」
「一騎を信用している」
「じゃ、力抜いて俺に任せて?」
「…ぁッ」
狭い場所に侵入するそれに、思わず熱っぽい吐息が零れる。
「ほら、気持ち良いだろ?耳かき」
引き抜かれ呆気なく終わってしまった事に、一騎は不満と悔しさを滲ませた。
そして少しだけ期待に満ちた目と声音で相手にねだる。
「もう一回だけ」
「これで何度目だ。もう僕以外に相手を頼め」
「総士としたいんだ」
この様子ではやはりこちらが折れて付き合うしかない様だ。
「…たかがトランプで、そうムキになるな」
「今日のスープ少し味薄かったか?」
「僕は調度良いと思った」
「そっか、総士が気にいったなら今度店でも出してみようかな」
「ああ、楽しみにしている」
そんな緊張感の無い会話をしながらも、二人は衣類を乱し次々と床かへ落としていく。
指先で肌を辿りながら、濃密な空気が部屋に満ちた。
互いを暴いてやりたい衝動のまま。
(補足:総一ちゃんが何でもない時(18・19)の会話は意味深なのに、いざ事に及んでる(20)時は何気ない日常会話してたら面白いかなーっと(笑))