※フレンの出番なし



ザーフィアスの市民街を歩くことにも随分慣れてきた。

しかし貴族街を歩くことには未だ慣れない。

好奇やら憐れみやら……とにかくハイネは彼らに見られることがあまり好きではなかった。

かなり苦手だった。

見られた後で交わされる小声も好きではなかった。

ハイネに隠そうとしたところで、彼女の耳にはしっかり入る。

いちいち消去しなければ、それは半永久的にハイネの中に居座った。

これは一人で歩くようになってから気づいたこと。

ハイネは知らなかったが、フレンはそういうものから守ってくれていたのだろう。

フレンへ更に感謝の気持ちを抱くようになった。

けれど、ハイネは思う。

自分はこういうことも知らなければならなかったのだと。

綺麗なものだけを見ることを『生きる』とは言えないだろう。


「あっ、君は……」


そう声をかけてきたのは、まだ幼さがよく見える少年だった。

ハイネは返事をするより先に、自身の記憶(きろく)を検索する。

残念ながらはっきりとしたものは見つからなかった。

けれど、ぼやけたものならすぐに見つかった。


「貴方、ユーリ、と、一緒、に、いた……?」

「うん。ボクはカロル」

「カロル……。カロル」

「うん!」


子どもらしい笑みを浮かべる彼をじっと見つめた。

記録するためではなく、心で覚えておきたかったから。


「カロル、は、ここ、で、何、を、している、の?」

「依頼人に会いに来たんだよ」

「……依頼人?」

「ボクたち、『凛々の明星』っていうギルドなんだ」


胸を張る彼を見ていれば、ギルドを誇りに思っていることがよくわかる。

しかし、ハイネはわからないと首を傾げた。


「ボク、“たち”? ブレイブヴェスペリア、には、他、にも、メンバー、が、いる、の?」

「うん。ユーリとジュディスだよ。あ、ラピードもかな」

「ユーリ、と、ジュディス、と、ラピード?」


よく知る名前が出てきたから、ハイネの声が少し大きくなる。

それは驚いた、ということ。


「今日はボク一人なんだけどね。君は、ハイネ……だよね」

「うん」

「ハイネはここで何をしてたの?」

「……散歩?」

「散歩? 一人で危なくない?」


外見はハイネより随分小さな少年。

彼に心配されるのは複雑な気持ちだった。

残念ながらハイネは「複雑な気持ち」を理解できないから、カロルの方が心配だと考える。

いつだったか(正確には12日前の夜)、フレンが幼い子どもが誘拐される事件が多発していると言っていた。


「ハイネ、気を悪くしちゃったのならゴメン」

「気分、は、悪く、ない。だから、気に、しない、で」

「そう? あ、そうだ。はい!」


カロルに渡されたのは、小さな紙。

そこには『凛々の明星』の文字。


「ボク、もう行かなきゃいけないんだ。それでね、もし相談したいこととか頼みたいことがあったら、言ってよ。ハイネの依頼なら大歓迎だからさ」

「ありがとう、カロル」

「じゃあね!」


大きく手を振って走っていく少年の姿が見えなくなるまで、ハイネはその場所で見送った。



リンク・カロル
(小さくて大きな首領)


2011/11/11
加筆修正 2013/09/18



 

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