※フレンの出番なし
出かけようとしたハイネは、断続的な雨を前に足を止めてしまった。
この中を歩いて行くことに抵抗はない。
若干視界が悪いが、この程度のことで支障を来すような作りはしていない。
けれど、濡れた後は少し面倒なことになる。
出かけなければならない理由はない。
それならば、今日は中止にすればいい。
けれど、せっかく出かけようと決めたのだから、何となくその決意を無駄にしたくない。
ハイネは色々考えた。
今までこんなことで悩んだり考えたりしたことがなかったから、少し戸惑っていた。
「ハイネ、こんなところで何をしているんです?」
廊下の壁に向かって立っている人間(ハイネは人間ではないが)を見つけたら、誰もが彼女と同じことを訊くだろう。
「……エステリーゼ」
今朝見かけた時に彼女は何か用事があると言っていた。
今ここにいるということは、それが終わったのだろうか。
それとも予定が変わったか、何か忘れ物をしたとか……。
ハイネは考えられる可能性をいくつか浮かべ、けれどそれを口には出さなかった。
「あ、あの」
「何?」
「ずっと思っていたんですけど。名前、エステルって呼んでくれません?」
「……エステル?」
確か、リタが彼女のことを『エステル』と呼んでいた。
記憶を辿り再生すると、間違いない。
「リタ、だけ、特別、じゃ、ない?」
「違いますよ。仲の良い方には、そう呼んでもらっているんです」
「でも、フレン、は、違う」
「……そう、なんです」
うつむいてしまった彼女を見れば、発言を間違えたと気づく。
フレンとエステリーゼは仲が良いに分類される。
少なくともハイネの中では。
けれど、フレンはエステリーゼを愛称で呼んでいなかった。
だから、リタだけに許された特別な呼び方だと思ったのだった。
ハイネは少し間を挟んだ。
「エステリーゼ。エステル。エステル、素敵、な、名前」
「え?」
「今、から、エステル、って、呼ぶ。嫌、じゃ、ない?」
「嬉しいです!」
にっこりと笑ったエステリーゼ――エステルの顔は綺麗だとハイネは思う。
それをそのまま口に出せば、エステルの顔は赤くなった。
綺麗や可愛いという言葉をもらった時のリアクションだとハイネは学ぶ。
自分ではエステルのように反応できないかもしれないけれど、機会があれば挑戦してみようと密かな計画を立てた。
できれば、それはフレンに対して行ってみたい……そんなことを考えながら。
リンク・エステル(大切な親友)2011/10/21
加筆修正 2013/09/18
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