※フレンの出番なし



ハイネは城の前でしばらく立ち尽くしていた。

これからどうしようかと計画を立てている最中だった。

何かをしたい、という気持ちはない。

何かをしなければ、という焦りもない。

ただぼんやり、空を見上げながら考えていた。

あまりに動かないから、周りの人間は声をかけた方がいいのか心配し始めていた。


「うん。市民街、へ、行って、みよう」


少しずつ、順番に学んでいこうと、自分の歩むべき方向を決めた。

たくさんの人が行き交う中は、ハイネにとって渦の中心のような場所。

少し離れた場所で、その波を眺めた。

同じような行動をしているのに、個性が見える。

これが人間の面白いところなのだろうか。

ふと見つけた後ろ姿に、体が一歩進む。

漆黒の髪の男性は、買い物途中のようだった。

しばらく様子を眺めていたハイネだったが、思い切って声をかける。


「ユーリ、さん?」

「ん? ああ、ハイネ……だっけ?」


記憶を辿るように、頼りなく呼ばれた名前は間違っていない。

ハイネは頷いた。


「どうしたんだ? 一人か? 迷子か? フレンは?」

「迷子、じゃ、ない。フレン、は、仕事。今日、は、私、一人。何、を、しようか、考えて、いた、の」

「よく許してくれたな」

「何、の、話?」

「フレンだよ。アイツ、お前には大分過保護だからな」

「それ、は、わかる」


リタやエステリーゼが何度も『過保護』だと言うから、『フレン=過保護』とハイネにインプットされていた。


「で、こんなトコで何してんだ? お使いか?」

「お使い……? 違う。私、は……」


そう言いかけて、ハイネは同時に色々考えた。

いつも一緒にいてくれるフレンに何か贈りたい、とか。

買い物のシステムは理解していても、お金を所持していない、とか。


「ハイネ?」

「何、でも、ない」

「何でもないって顔してねぇな」


ユーリのその言葉が引っかかった。


「私、いつも、同じ、顔」

「そうか? オレにはわりと表情豊かに見えるけどな」


そんなことを言われたのは、初めてだった。

ぱちぱちと驚きを表すように瞬きを繰り返す。


「ありがとう?」

「どういたしまして? で、ハイネは暇なのか?」

「暇……? 予定、は、ない」

「それなら、オレに付き合わないか?」


彼の言葉がすんなり自分の中へ入ってくる。

どうやら、ハイネは彼と一緒に過ごしたかったらしい。


「お願い、します」

「こちらこそ」


ハイネはユーリの後ろを歩く。

彼の買い物を見ているハイネは、色々と勉強になることばかりだった。

たとえば、物の良し悪しの見分け方や店主とのやりとり。

ユーリに声をかけて正解だと思えた。

いつの間にか時間は過ぎていて、そろそろ帰らなければ心配されてしまう。


「じゃあ、またな」

「また……?」

「たまには、こっちにも遊びに来いよ。いろんな場所へ連れてってやるからよ」

「本当、に?」


ニッと笑ったユーリは、小指を出す。


「指切りでもしてやろうか?」

「指切り……」

「嫌いか?」


ハイネは頭を左右に振って、ユーリの指に自身のそれを絡めた。


「ありがとう、ユーリ、さん」

「さん、はいらねぇな」

「ありがとう、ユーリ」


いつも見ているフレンの笑顔とは違うユーリの笑顔。

嫌いじゃない。

だから、多分好きなのだろう。


「ユーリ、は、友達?」

「オレとハイネがってことか? お前が嫌じゃなきゃな」

「嫌、じゃない、よ」

「じゃあ友達だな。またな」

「うん。バイバイ」



リンク・ユーリ
(フレンのトモダチ。私のトモダチ)


2011/06/02
加筆修正 2013/09/18



 

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