※フレンの出番、ほとんどなし



ザーフィアス城の一室。

これまで何度か来たことのある馴染みの部屋。

ハイネの定期検診(メンテナンス)に使われる部屋だった。

静かに流れる時間。

しばらくぼんやりしていたハイネが思い出したように声を出した。


「リタ」

「何ー?」


魔導器から手を離し、リタはハイネと目を合わせる。

今までは気のせいだと思っていたが、彼女の瞳には確かな感情が見てとれた。


「私、少し、考えた、の」

「何を?」


ハイネは瞼を閉じる。

言葉を整理するような時間。


「もっと、色々、知りたい。フレン、の、こと、も、みんな、の、こと、も、世界、の、こと、も」


知りたい。

知らなきゃならない。

近づきたい。

そんな言葉を並べるハイネに、リタは優しい顔を見せた。


「あたしは、いいと思うわよ。ハイネはもっと色んな人と関わりを持つべきだから」

「ホント?」

「何? フレンに怒られたりしたの?」


ハイネは頭を落とす。

それから溢れるような小さな声で呟いた。


「フレン、は、ダメ、って、言わない。危ない、よ、って、言う、けど」


その時見せるフレンの顔が、ハイネは少し『イヤ』だった。

その顔が、ダメだと言っている気がしたから。


「ハイネが気にすることないって。可愛いワガママじゃない」

「ワガママ、なの?」

「違うけど、フレンにそう言ってみたら?」


ハイネは唸る様を見せた。

それから頷いた。


「こっちは終わり。異常なし。今日も健康よ」

「ありがとう、リタ」

「せっかくだから、こういうのはどう?」

「?」


リタは二人きりの部屋で内緒話をするように、ハイネの耳元で囁いた。

その内容を理解すると、首を傾げる。


「今のは、ジュディスからの提案。きっと、面白いものが見れるわよ」

「……わかった。やって、みる」

「しばらくは様子見だけど、何か異常が見つかったらすぐに連絡してね」

「うん。ありがとう」


先に部屋を出たリタを見送って、ハイネは自分の部屋へと向かう。

扉の前に立ち、まだ彼はいるだろうかと考える。

フレンは忙しいはずだから、もう仕事に戻っているかもしれない。

そのことを『寂しい』と感じられないハイネは、一呼吸ほどの時間を置いて扉を開いた。


「おかえり、ハイネ」

「フレン!」


本を読んでいた彼は、ハイネに気づくと立ち上がり、彼女の前で微笑んだ。


「お疲れさま」

「あの、ね」

「うん、どうしたんだい?」

「私、みんな、と、話、が、したい」


一瞬、フレンの表情が曇った。

納得したとは言い難い表情で告げる。


「いいよ。でも、無茶しないでくれ」

「うん。約束」


差し出したハイネの小指。

絡めてくれる優しさを知っている。

どこか、遠い昔、似たようなことをした記録が再生された気がした。


「ハイネ?」

「ありがとう、フレン」


指切りをほどいて、抱きついてみる。

力を入れすぎないように気をつけて、すがるようにそっと。


「ハイネ!?」

「リタ、の、予想、通り……」

「え?」

「フレン、の、顔、色々。難しい、顔、より、私、は、こっち、の、方、が、好き」


スパッと言葉が途切れたフレンを首を傾げたまま見つめる。

また難しい顔をしていた。

フレンはハイネを自分から離し、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめる。


「行ってらっしゃい、ハイネ」

「行ってきます」


ハイネは不器用な笑顔で、フレンの手を頭に受けた。



メンテナンス・ドール
(広い世界への扉を自分の手で開ける)


2011/03/19
加筆修正 2013/09/18



 

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -