※フレンの出番なし(ラストちらっと)
部屋でぼんやりと天井を眺めていた。
これといってしたいことは何もない。
雨が続いていた帝都で久しぶりの晴れ間だというのに、ハイネはぼんやりと天井を眺めていた。
「退屈……」
こぼれ落ちた単語を聴覚が拾い、その音声を無意識に解析する。
作り出されたハイネの声。
あたたかみも優しさも存在しない冷たい声。
「……違う。そんな、こと、ない」
脳内で伝えられる信号に反抗する。
ハイネが今学んでいるのは、そんなものではない。
何となく胸の中にモヤモヤとした不快感――憂鬱を感じていた時だった。
部屋の扉を叩く音が聞こえた。
フレンかもしれないと慌てて扉に近寄った。
「……」
「その反応は何ですか。……まあ、いいです。隊長はいらっしゃいますか?」
扉の向こうに立っていたのは、ハイネも何度か顔を合わせたことのある人物だった。
フレンの隣に立つ凛々しい女性騎士、ソディアだ。
「フレン、は、いない、よ。何、か、急、な、お、仕事?」
「いえ……」
ソディアは顔を背けた。
じっと観察すると、瞳が揺れていることと彼女の反応がいつもと随分違うことに気づいた。
何かを隠している。
それは、ハイネに?
フレンに?
「ソディア、いつも、と、少し、違う。フレン、に、どんな、用事? 話しにくい、こと? わたし、邪魔?」
「いえ。そういうわけでは……」
嘘ではないだろうが、ハイネの言葉を肯定しているように見えた。
ハイネは頭を少し傾ける。
それから、ソディアの手に触れた。
予想した通り彼女は弾かれたようにハイネの手を振り払った。
「あ、あの、す――」
「ソディア。わたし、は、人形、だから、色々、気、に、しない、で」
揺れた瞳を閉じて、それからソディアは真っ直ぐにハイネを見詰めた。
「今日は隊長の誕生日です」
「誕生日……? フレン、が、生まれた、日?」
「そうです。ですから、我々フレン隊は隊長の誕生日を全力で祝うべく……コホン。貴女には関係のない話でしたね」
「……騎士、の、話、は、確か、に、関係、無い。でも、フレン、の、誕生日、は、関係、ある」
彼がいなければ、ハイネは今ここに存在しなかった。
感情を学びたいと思うことも、傍にいたいと願うこともなかった。
大切な存在だ。間違いない。
誕生日にはご馳走を用意したり、贈り物を用意したりするらしい。
脳内の膨大な情報量に感謝し、時々新しい情報を蓄積してくれる仲間たちにも感謝し、ハイネは重い身体を動かすことにした。
「ありがとう、ソディア」
「私は何も……。ですが、役に立てたなら、良かったと思う」
少し頬が赤い。
体温の上昇も僅かだが、感じ取れる。
ソディアはハイネに教えてくれに来たのだろうか。
二度目のお礼を口にする前に、ソディアは去ってしまった。
フレンの為にできることは何だろう。
思考回路が焼け焦げてしまうほどにフル回転させる。
ハイネがされて嬉しいことは、彼も嬉しいはずだと昔誰かが教えてくれた。
今自分が『嬉しい』のは、どんなことでどんなものだろう。
それは、データベースから簡単に見つからなかった。
***
魔導器が回路を急かすようにキラキラと光る。
きっとこれは『ドキドキしている』ということではないのだろうかと、ハイネは自身を冷静に分析する。
自分は今緊張している。
それは、何故?
フレンに会うのはいつものこと。
確かに会えない日が多いけれど、会うのが久しぶりな時も多いけれど、けれど……。
体内の空気をすべて入れ替えるように『呼吸』をした。
足音が聞こえる。
「お誕生日、おめでとう!」
扉の先の彼は驚き、それからゆっくり微笑んだ。
リンク・ソディア(きっと不器用で優しい女の子)2016/06/08
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