※フレンの出番なし



階段を下りた先に立っていたのは、長い銀髪の男性だった。

血の様に赤い瞳がハイネを睨むように鋭く見つめている。

無いはずの心臓――ハイネの場合、魔導器なのだが――が、軋んだ。

これは、恐怖という感情だろうか。

自分の中の回線が不自然に危険信号を送ってくる。

今すぐに逃げ出せと叫ぶ。

けれど、それでは駄目だと叱る自分も確かにいた。

生まれたばかりの恐怖を抑えながら、ゆっくり彼に近づいた。


「初め……まして……?」

「今話題の魔導器を使った人形というのはお前か?」

「多分、そう。私、の、名前、は、ハイネ。貴方は?」

「デュークだ」

「デューク?」


聞かない名前だった。

仲間たちの会話の中にも出てきたことがない。

首を傾げた様子を見て、彼は悟ったのだろう。

小さく息を吐き出した。


「なるほど。檻に守られたお姫様ということか。知らせないというのは罪だな」

「何、の、話? 私、何、を、知らなければ、ならない、の?」

「知る勇気はあるのか?」

「知らなければ、ならない、の、ならば。私、は、知りたい」


それがこの先『生きて行く』ことだと思ったから。

デュークはハイネに背を向けて歩き出す。

着いて来い、という意味だろうか。

少しの距離を保ったままハイネも歩く。

彼が発するすべてをデータとして蓄積していく。

と言っても、癖のようなものは見つからなかったけれど。

人では無いみたいだとその背中を見てハイネは感じた。


「魔導器は」


不意に彼が口を開いた。

何一つ情報を逃さないために、聴覚に全エネルギーを集中させる。


「はい」

「お前の持つ特殊な魔導器はこの世界にあってはならない、と思わないか?」

「……私、は、いては、ならない?」

「お前は死ぬべきだ、そう言われたら、どうするつもりだ」

「……私、は、ずっと、前、に、役目、を、終えている、はず、の、人形(どうぐ)。本当、は、今、いては、いけない。けど、少し、だけ、時間、が、欲しい。私、を、消す、前、に、やりたい、こと、が、ある」


デュークは何も言わなかった。

変わることのない表情からは何も読み取れない。


「お前には必要だったのだな。鉄壁の檻が」

「どういう、こと?」

「お前の魔導器を巡って戦争が起きたら……と心配していたが、どうやら杞憂だったらしい」

「戦争……」


過去に『人魔戦争』という大戦が起きたことは知っていた。

簡単に口にしてはならない気がして、音にしないようハイネは唇を噛んだ。


「ハイネ」

「……はい」

「お前にならば、託してもいいかもしれない」

「託す? 何、を?」


今まで変わらなかった表情が動く。

そこにあったのは、微笑。

錯覚かと思えた表情を何度も焼き付けた。


「そろそろ戻らないと、心配されるぞ」

「……わかった。また、教えて、くれる?」

「ハイネが会いたいと思ってくれるならばな」


このあたたかく優しい空間に甘えていた。

もう一度考えなければならないのかもしれない。

小さくなっていくデュークの背を見送りながら、ハイネは覚悟を決めた。



リンク・デューク
(見つめる先にあるもの)



2017/07/22



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