※フレンの出番なし



いつもと変わらず街を散歩していたハイネは、道端にできた小さな水玉に足を止めた。

徐々に増えていく水玉は、やがて地面一面を濃く染めた。


「雨、だ」


朝からまとわりつくやや不快な空気から確信に近い想像をしていたが、実際目にするのは違う。

ハイネは雨を嫌ったりしないが、視界不良な天気は好ましくない。

城に戻ろうかと足を向けた時だった。


「ラピード?」

「ワンッ!」


艶やかな毛並み、くわえたキセル、貫禄ある成犬がそこにいた。

ユーリとフレンの相棒だとハイネは彼に近寄る。

話したいこともあるが、とりあえず二人は一時的に雨を凌げる軒下に入った。

穏やかとは言い難い雨足だが、この程度の音では彼女の聴覚を邪魔できない。


「ラピード、は、元気?」

「ワンッ」

「今日、は、一人、なの? ユーリ、は、一緒、じゃ、ない?」

「ワフゥ……」


水のように溢れるいくつもの疑問にラピードは一つ一つ鳴き声をあげて答えた。

どれも微妙に違う声。

ハイネの問いかけに彼なりにしっかり答えてくれているのだろう。


「ラピード、ありがとう」

「ワンッ!」


ハイネはラピードをユーリの相棒として見ている。

ラピードの瞳には、ハイネはどんな風に映っているのだろう。


「ラピード、に、は、どう、見えて、いるの?」

「ワフゥ?」

「私、どんな、風、に、見える?」


ラピードは考える素振りを見せるように頭を傾げた。

それから切ない声を上げる。

どうやら無茶ぶりをしてしまったらしい。

悩ませてしまったことへの謝罪と感謝を口にすると、いつもの声が返ってきた。


「ラピード、は、良い、子、だね」

「クゥーン……?」

「私、ラピード、好き、だよ。フレン、とは、ちょっと、違う、けど、ユーリ、たち、と、同じ、好き」


自分で発言した「好きの違い」にハイネは頭をゆっくり右へ倒した。

確かに驚きと戸惑いを感じた。

好きという言葉は同じなのに、中身が異なるなんてどういうことなのだろう。

人の感覚で言葉の意味が様々な表情を見せることは知識としてデータベースに保存されている。

それでも自分が「感じる」のとでは大きく異なる。


「ラピード」

「ワン!」

「私、どこか、違う?」

「ワフゥ?」

「顔、は、同じ」


ハイネは自分の頬に手をやる。

人間のように頬を引っ張ったりはできない。

柔らかい素材で作られているものの、ちょっと動くかどうか、という程度だ。

次にハイネは両手を頭へやった。

少し濡れた紅玉のような色の髪がそこにあるだけ。

当然のように髪は伸びない。

元々長髪だったから、時々仲間たちがアレンジを加えてくれる。

そのまま両手で鎖骨付近に触れる。

そこそこスタイルよく作られた身体。

身長は平均的で、様々な機能がついている割には体重もそう重くない。

身長体重という言葉とは違うとハイネは否定しそうだが。

変わったと断言できる部分は見つけられなかった。


「ラピード、よく、わから、ない……」

「ワフゥ」


ハイネにすり寄ったラピードは、大丈夫ちゃんとわかる、そう言っているようで、ハイネの疑問をほんの少し和らげた。

二人の空間を作っていた雨は上がる。


「ありがとう、またね」

「ワンッ!」


ハイネは手を振って、ラピードは尻尾を振って、二人は別れた。

友人のようで、相棒のような、少し不思議な二人の関係。



リンク・ラピード
(コミュニケーション勉強中)



2015/06/08



 

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