※フレンの出番なし



一人で店に入る。

最初は戸惑うことも多かったが、今では微塵の躊躇もなく足を踏み入れることができる。

店主はハイネの姿を認めると柔らかな笑みを浮かべ「いらっしゃい」と迎えた。

何度か来るうちに顔見知りになった店主は、ハイネを気にかけてくれているようでよく話をしてくれた。

世間話や噂話、様々な話を聞かせてくれる。

それらは大切に記録されていた。

時の流れは穏やかでうっかり長居してしまった。

予定では半時間ほどの時をここで過ごすはずだったのに、倍以上の時間が経っている。

驚くと共に自分はここが「好き」なのだと気づくことができた。

好きなものが増えたことをフレンに報告したい。

最近は彼が忙しくてあまり会えていない。

話したいことと寂しさが日々積もっていた。


「あら、貴女……」


店を出てしばらくすると耳に飛び込んできた声。

おそらく自分にかけられている言葉だろうと推測し、ハイネは顔を上げる。

青い綺麗な髪と特徴的な長い触手。

露出の高い服を身につけたスタイル抜群の女性。


「ジュディス、だよね。クリティア、族、の」

「ええ、そうよ。貴女はハイネだったかしら? ザーフィアス城に住んでいるフレンのお気に入りの」

「名前、は、合ってる。でも、フレン、の、お気に入り?」

「ええ。結構広まってるわよ。フレンが溺愛している女の子の話」

「フレン、が、溺愛……?」


ピンと来ることはなく、疑問が回路を走っていった。

無表情なまま、ハイネは頭を傾ける。

それは考えて行った動きではなく、無意識に出たもの。

ジュディスも何となく感じ取ったのだろう。

更に微笑んで見せた。


「そうね。貴女はわからなくていいわ」

「……わかり、たい」


ジュディスは笑っているだけだった。


「ジュディス、教えて」

「貴女が自分で気づいた方がいいから、内緒」

「それ、は、無理。だから、教えて」

「無理じゃないわ。だってハイネですもの」


彼女が言っている意味が理解できない。

けれど、いずれ理解できるとジュディスが言っているから、ひとまず彼女の言葉を受け入れることにした。


「ハイネ」

「何……?」


ジュディスの手がハイネの頬に触れる。

そこまで敏感に感じられないが、優しく愛しいものに触れるジュディスの手は、何かを訴えている。


「……ジュディス?」

「貴女は誰よりも彼の近くにいるわ」

「彼……? フレン……?」

「勉強しなければならないこと、たくさんあるわね」

「うん。もっと、色々、知りたい」


『知らなければならない』よりも『知りたい』のだ。

だから、たくさんの人と話をしたい。

それから、フレンと話をしたい。


「あら、こんな時間。ごめんなさい、もう行かないと……。またね、ハイネ」

「うん、また。ジュディス」


背中を向けた彼女を呼び止める。

振り返ったジュディスにハイネは言葉をかける。

今伝えたいと思った言葉。


「私、ジュディス、みたい、に、なりたい」

「あら、ありがとう」

「だから、また、話、して」

「ハイネのお誘いなら、大歓迎よ」


ジュディスのようになりたい。

それはハイネの中に生まれた一つの目標だった。



リンク・ジュディス
(『憧れ』を抱かせる女性)


2013/06/08
加筆修正 2013/09/18



 

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