※フレンの出番なし



頭上には真っ青な空が広がっている。

綺麗に晴れた空は、何者にも平等を与えているようで心地よい。

自分の体の調子が良い気がする。

それはデータで示されたものではなく『感じ取った』もの。

情報の伝達ミスや不要なものではなく、ハイネが欲しているもの。

必要だと考えているもの。

色々考えてみて、ふと辿りつく。

本当に必要で、本当に欲しているものだろうかと。

ただ、そう思い込まされているものではないか。

グルグルと不要な回転を始めた思考回路を忘れるように頭を振ってみた。

効果的な行動ではなかったが、気にしないで目的地へ体を向ける。

ハイネは慣れた調子で市民街へと足を踏み入れた。

賑やかな空気にも随分馴染んできたと思う。

さて今日はどうしようかと考えている時だった。


「あれ? もしかして、ハイネちゃん?」


間違いなく自分の『名前』を呼ばれた。

激しい雑音の中でも、ある程度の声は聞き分けることができる。

よく聞く声ではないが、知らないものではない。

ハイネは声の発生源へと顔を向けた。

ヒラヒラと手を振って存在をアピールしている男性。

声からわかっていたことだが、視覚から取り入れた情報で頷いた。


「レイヴン」

「久しぶりだねぇ〜」


親しげに歩み寄ってくるレイヴン。

ハイネは少し前の記憶を取り出す。


「ちょっと、何で離れるの!?」

「ユーリ、が、教えて、くれた。レイヴン、に、近づいたら、危ない」

「危なくないって!!」

「本当、に?」

「ホントホント。おっさんほど安全な人間もいないわよ」


ハイネは頭の中でユーリの言葉とレイヴンの言葉を再生させる。

揺れた天秤は傾く方向を決めかねている。

やや重みを増すユーリの言葉を信じて、ハイネはレイヴンから距離をとったまま彼の言葉を否定するべく頭を振った。


「ちょっと、ハイネちゃん!!」

「大丈夫。会話、には、支障、ない、から」

「この距離じゃ、おっさん無理ー」


道端で彼が大きな声をあげ続ければ、周囲の人間に迷惑をかけてしまうだろう。

様々な状況を配慮した結果、ハイネは彼に近づくことにした。


「……ハイネちゃん」

「何?」

「そこまで警戒しなくても、何もしないから!」

「……大丈夫。警戒、レベル、は、低い、から」

「それは大丈夫って言わない」


レイヴンはガクリと肩を落とす。

あまりに落ち込んだ様子だったから、ハイネは彼の前に立ちその肩に触れた。


「レイヴン、元気、出して。元気、ない、と、みんな、寂しい、よ」

「……ハイネちゃんも?」

「私? あんまり、寂しく、ない」

「……正直だね」


頭を横に倒すことで疑問を表すハイネに、レイヴンは渇いた笑い声で返した。


「私、寂しい、って、あんまり、思わない」


彼女が『寂しい』と思うことを学んだのはつい最近。

まだよくわかっていないという方が正しい。


「ごめんごめん。ハイネちゃんが可愛いから、おっさん意地悪しちゃった」

「可愛い……?」

「うん。すっごく可愛い」

「私、可愛く、ない、よ?」

「こういう時は、素直にありがとうって言うの」


目線を合わせるために、かがんでくれたレイヴンがそう言う。

彼がそう言うのだから、それが正しいのだろう。

いや、本当に正しいのだろうか。

ハイネは少し整理したあとで答えた。


「ありがとう、レイヴン」



リンク・レイヴン
(信じていいのか、疑うべきなのか……)


2012/01/02
加筆修正 2013/09/18



 

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -