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※『白の芥川、黒の敦』設定
※未読の方は要注意



「ふわあ……」


大きな欠伸を隠しもせずに杏樹は其の侭瞬きを繰り返す。

そして、もう一度欠伸を……。


「杏樹、眠いのならば、自室でとっとと休むといい。君の仕事は今何一つ無い筈だ」

「え。一人だと寂しくない?」

「……」

「無言の圧力は怖いよ、首領」


呆れを多分に含んだ溜め息。

其れすら安心材料で眠気の尻尾を優しく包まれた。

此処はポートマフィアの首領・太宰の執務室だ。

暗殺者として活躍する杏樹は、暫く暇を持て余していた。

其の不満をぶつけに来た、と云う訳では無いが、数日程入り浸っていた。


「そろそろお仕事が欲しいです。身体が鈍って使い物になりません」

「毎日欠かさず訓練している人間の台詞とは思えないな」

「訓練と実践は違います」

「なら、今此処で私を殺してみるかい?」

「……首領、暗殺の意味知ってます? 其れに、仮令実行したとしても、凶悪過ぎる番犬様に噛み砕かれると思います、わたしが」


杏樹が出した人物に太宰は不快を示した。

其の証拠に眉間に深い皺が出来ている。

貼り付けられた笑顔よりは人間らしくて、好ましい表情だった。


「首領」

「そろそろ出て行ってもらえるかい? いくら君でも甘やかせるのは此処までだから」

「……大事な仕事の話ですね。判りました」


眠気などとうに消え去っている。

此の侭自室で休眠と云う気分では無い。


「……わたしは、此処に居るから。だから」

「何を云いたいのか判らない訳では無いけれど……。そうだね、特に云うべき事は何も無いかな」

「そう。なら、善い。おやすみなさい」

「……ああ。おやすみ」


部屋を出ようとして、杏樹は其処で振り返った。

彼はもう次の報告書か資料かに没頭している――演技をしていた。


「……頼って欲しいんだよ。こんなに不安定な世界だから」


聞こえるギリギリ位の声量で呟き、静かに扉を閉めた。


「もう善いのか、暗殺者殿?」

「……そろそろ『白い死神』くんが来そうだし……。暫くは自主出張だって伝えておいて貰えます?」

「……了解」



――さあ、彼の邪魔をする凡てを破壊しに行きますか。



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(2018/03/14)


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