鬱陶しいきみのことだから


鳥の鳴き声が耳元で響く。

爽やかな……とは言い難い大音量。

うとうととしていたミクリオは重い瞼を押し上げた。

顔を左右に動かし、現状を確認する。

彼の頭付近で鳥たちが大合唱を行っていた。

穏やかな眠りを妨げられたミクリオを気にすることもなく、どうだったと感想を求める小鳥の瞳。

うるさいと瞳で返してみたが、首を傾げて言葉を待つ姿に溜め息しか出なかった。


「ミクリオ!」


うるさいのが増えたと一人こぼした文句。

たとえ彼女に届いていたとしても無意味だから、ミクリオは何も言わない。

アンジェが傍に立つと、鳥たちが一斉に飛び立った。

賑やかな歌声は消えてしまった。


「ねえ、ミクリオ」

「何?」

「見て!」


彼女の手にあったのは、カスタードプリンが乗った皿。

やや不格好なそれを見る限り、アンジェの手作りだ。


「今回はかなりの自信作! だから、審査お願いします、先生」

「……。君は僕を太らせて食べる気なの?」

「天族には関係ない話でしょ! 殴られたいのなら殴るよ! エドナちゃんから、殴り飛ばすコツ聞いたんだから!」


若干、いやかなり荒れている。

アンジェに一体何があったのか、少しだけ思考してみることにした。

……特に何も浮かばなかった。


「じゃあ、ミクリオは何だったら、食べてくれるの? 導師様の手作りだったら、何でも食べてるじゃない」

「何でもじゃない。ずっと一緒に過ごして来たから、何となく……」

「何となく一緒にいたいんだ。私より? 導師様より可愛い私より?」

「スレイと君は比べるところが違うだろ」


アンジェは頬を膨らませた。

彼女だって比較対象がおかしいくらいわかっている。

けれど、それも可愛いヤキモチか。

しばらく考えた後で、ミクリオは彼女に向けて手を出した。


「そのプリン、ちょうだい」

「あ、うん……」


自信作だと言い切った割には、あまりよろしくない反応だ。

なかなか手を出さない。


「アンジェ?」

「味見はしたし、美味しかった。けど、ミクリオの口に合わなかったら、ごめんね」


随分早口な前置きだった。

早すぎる言い訳にミクリオの口元には笑みが浮かんでいた。

それに気づく余裕もないらしい。

一口食べれば、アンジェらしい味がした。


「美味しいよ、アンジェ」

「ホントに? お世辞じゃなくて?」

「お世辞が欲しいなら、普段からもっと言ってあげるよ」

「いえ! 本音のみでお願いします!」


小さい子供のようにも、大人びた女性のようにも見えるアンジェ。

嫌いではないけれど、もう少しだけ距離が欲しいと思えば、それが口からこぼれていたらしく、アンジェに怒られた。


「そういう所が好きなんだけどね」

「ミクリオ!?」

「何」

「お口閉じよう? 何か発言がおかしい」

「至って正常だけど、君が望むならそうしよう」


訪れる沈黙に耐え切れなくなったアンジェは、いつもと変わらない賑やかな話を始めるのだった。



鬱陶しいきみのことだから



title:残香



(2017/08/23)


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