掲げたのは僕らの青


青い空と白い雲。

照り付ける太陽とうるさい蝉の大合唱。

季節は夏。

真夏。

彼らが主役の季節だ。

雨知らずの夏空は、暑く熱く人々を煽る。

好きな季節だけれど、身体がばててしまうのは仕方ない。

薄着故のコンプレックスはもう随分前に捨ててしまった。

諦めた、という方が正しいかもしれない。

杏樹の決意なんて綿菓子のようなものだ。

色々考えながら歩いていると、彼の姿を見つけた。


「凛!」


右手を高く挙げる。

自分の存在をアピールしたわけじゃない。

そんなこと、彼にはお見通しだ。

軽くその手に彼の手が重なった。

ハイタッチ。

自分にそんな資格は無いと卑下してしまいそうになるけれど、それは違う。


「お待たせ」

「五分遅刻だな」

「そこは、今来たところとか言う場面でしょ?」

「言って欲しかったのか」


にやにやと可愛くない笑顔はぐーで殴っておいた。

ちなみにそれは、殴るなんて言葉から程遠い動作だったけれど。


「凛って、私のこと好きなの?」

「何直球投げてんだよ。意味わかんねえ」

「突然だとは思ったけど、聞いておこうかなって」


何先走っているんだと自分を叱りながら、飛び出した言葉は消せない。

上手く繕えたらいいのに、不器用さはこんなところにも表れていた。

口を開けば、その都度墓穴を掘っている。


「何勝手に泣こうとしてるんだよ。お前自由すぎるだろ」

「……ごめん」

「休日を嫌いな奴に使う趣味ないんだよ、俺は」

「つまり?」

「にやけるな、ばーか」


速足で先に歩き出す凛の背中を追いかける。

このまま彼が歩いて行けば、杏樹は確実に走り出さなければならないだろう。

この暑い中、トレーニングは厳しい。

凛の背中を恨めし気に見つめた瞬間、彼が振り向いた。

慌てて表情を戻すが、どうやら一瞬遅かったらしい。

凛は盛大なため息をついた。


「放っておかれたいのか、一緒に行きたいのか、どっちなんだよ」

「……一緒に行きたい、です」

「だったら、早く来い」


凛の隣に並んでゆっくり歩く。

潮の匂いを含んだ夏風が二人の間を通り過ぎていく。


「ねえ、凛」

「あ?」

「今日どこへ行くとか聞いてないんだけど」

「言ってなかったか?」

「聞いてないから、ちょっとドキドキしてる」


杏樹の返答に満足したのか、凛は笑った。

そして、体温の高い手で彼女の手を握る。

珍しくて驚いてしまった。


「待たされた間暑かったから、お前も同じ暑さを感じとけ」


赤い瞳から逃げるように見上げた先は、彼らの未来を表すような青い空だった。



掲げたのは僕らの青



title:凱旋



(2017/06/06)


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