お菓子をくれないとお仕置きするぞ




10月ももう間もなく終わる。

そんな日のこと。


「宗介、何か甘いもの持ってない? 頭使ったら、疲れた」

「疲れる程勉強していないだろ」

「しましたぁー」


適度な温度が保たれた図書館。

ここに集まって一緒に勉強することがいつの間にか日常になっていた。

受験生になって随分経つが、勉強の進み具合はイマイチだ。

まだ時間があると、何とかなるだろうと、今に甘えているからなのだろう。

そんな自分を叱りながらも、上手い具合に集中できない。

誰かどこかにあるやる気スイッチを押してくれないかと他力本願。


「宗介、甘いもの」

「仕方ない。じゃあ、目を閉じて手出せ」

「はーい!」


ハートマークが飛び出しそうなそんな声で元気に返す。

忘れていないだろうか。

ここは図書館である。

静かにしなければならない。

小さなリップ音一つ。

何をされたかわからない子どもではない。

叫びそうな口を慌てて押さえた。


「は? 何してるの? 頭悪いの? バカなの?」

「……忙しい奴だな」

「何を平然としているわけ? 私は、甘いものが欲しいって言ったの」

「知ってる。だから、やっただろ。甘いもの」

「そんなものは欲しくないわ! リアルに引くわ!」


溜め息の連続コンボ。

最後に思い切り吐き出した。


「宗介くん。私は、受験まで恋愛断ちしてるの」

「そんなこと言ってたな」

「バカップル要素など要らんわ! リア充爆発しろ!」

「はいはい。俺が悪かったから、静かにしろ。図書館だぞ」

「わかった。甘いものって言った私が悪かった。お菓子が欲しい。お菓子頂戴」

「菓子……か」

「うん。甘いお菓子。チョコレートとか、クッキーとか、金平糖とか、フィナンシェとか……」


延々とお菓子の名前をあげる。

聞いているだけで宗介はその甘さに酔ったような気がした。

胸焼けがするとげんなりして見せるが、瞳を輝かせた彼女には届かない。


「あ。今日はハロウィンだ。お菓子くれないと悪戯するぞー」

「ほら」

「……」


オレンジ色の袋に濃い紫色のリボン。

ハロウィン仕立ての小さな袋一つ。


「……宗介?」

「たまにはな」


まさか用意しているとは思わなかったから、素直に驚いた。

似合わないけれど、嬉しい。


「ありがと――」

「トリックオアトリート」

「……はい?」

「今度は俺の番だろ」

「私、何も持ってない……」

「んじゃ、お仕置きだな」

「は?」

「さて、何をするかなぁ」


恋愛断ちなんて上手くいかない。

何と言っても、相手の協力がもっとも必要なものなのだ。



2015/10/21



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