今年もハロウィンがやってきた




街の中がほんのり色づく。

それは、クリスマスやバレンタインほどではないけれど、ほんのり優しい色。


「遙」


名前を呼んで、隣を歩く彼の手を握った。

少し冷たい大きな手は握り返してくれた。

拒絶されたらどうしようと不安になっていたから、ほっと息を吐く。


「どうした?」

「ん。何でもない。寒くなってきたねぇ」

「ああ……」


声のトーンが落ちたのは、泳ぐことができないからだろう。

遙らしいと声に出さずに笑う。


「何を笑っている」

「あれ、ばれた?」

「ばれないと思ったのか」


ムッとした声に変わったから、クスクスと声に出して笑う。

バカにしているわけではなくただ嬉しいのだ。

当たり前のようにお互いのことがわかってきた現実に。

自分よりも大きな手をぎゅっと握る。

ほんの少し強い力で握り返される。

それはまるで会話をしているようだった。


「ねえ、遙。ちょっとだけ時間ある?」

「? ないことはないが」

「簡単な遊びに付き合ってもらっていい?」

「……」


露骨に嫌な顔をされ、少し困ってしまう。

これから遙を困らせるのは自分だと言うのに。

構いたい。

構われたい。


「遙、お菓子と悪戯、どっちがいい?」

「……そうか。今日はハロウィンか」

「大正解。で、お菓子と悪戯、望むのはどっち?」

「どちらでも構わないと言うんだな?」


何だか恐怖を感じ、へらっと曖昧な笑顔で受け流してみた。

下手な笑顔で乗り切れるようなことなどほとんどない。


「訂正。お菓子、ください」

「俺が持っていると思うか?」

「……思わないけど、何かの拍子に持ってたらいいなって」


遙は鞄の中に手を突っ込んだ。

グーが目の前に出される。

お菓子持っていたんだと両手で受け取る形を取ったが、落ちてきたのは空気だけ。


「? はる――」


前髪をかき上げておでこにキス一つ。

魔除けのようなソレの意味を問うように顔を見上げた。


「遙?」

「少しはゆっくり休むんだな」

「え? 何? 何の話?」

「顔、鏡で見てないのか?」

「そんな酷い……?」


人前に出られないような顔で一日を終えようとしているのかと思うと、羞恥で消えたくなる。

溶けたくなる。


「そんなに酷くはないが、俺には疲れているように見える。無理、してるだろ?」

「無理なんて……」


多少勉強に割く時間が増えたくらいだ。

夜寝る時間もそんなに変わっていないし、朝起きる時間だって言うほど変わっていない。


「無理なんて、してないよ」

「していても、していないと言うだろう?」

「ホントにしてないんだってば」


どう言えば信じてもらえるのだろうかと頭を悩ませる。


「ほら」


遙は右手で彼女の頭をぽんぽんと優しく撫で、左手でチョコレートを差し出した。


「遙?」

「無理しない範囲で頑張れよ。一緒の大学に行くんだろ?」

「うん。頑張る」


秋は深まり、やがて本番を連れてくる。

それには絶対負けない。



2015/10/21



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