お願いパンプキン!




ハロウィンというイベントを知っているだろうか。

そう問われたら、曖昧に頷くことしかできない、そんなに詳しくないイベント。

お菓子がもらえて嬉しい、なんて年はとうの昔に通り過ぎた。

だからいつもと変わらない一日が始まるはずだった。


「ナタリア?」


若干の怒気を孕んでしまったのは、この際許してもらいたい。

頭からスポンジケーキのタネらしきものを被れば、誰だってそうだろう。

ひんやりとした粘着力のある液体。

前髪をゆっくり伝って落ちる。


「あら、御機嫌よう」

「……他に言うことがあるだろ?」

「……ごめんなさい」


ぺこりと素直に頭を下げた。

本当に反省しているようで、しゅんと落ち込んでしまった。

取り敢えず事情を訊くのが先か。

それよりタオルが欲しい。

シャワーを浴びた後で、ナタリアと向かい合って座った。


「で?」

「で? っとおっしゃられてもわかりませんわ」

知らないフリを通すつもりなのか。

それとも隠しておきたいことだったのか。


「言いたくないなら、別にいいけどさ。協力できることあるかもしれないだろ」

「協力……」


その言葉をぽつりと呟き、ナタリアは一度頷いた。

覚悟を決めた、だろうか。


「私、カボチャのお菓子を作ろうと思っていますの」

「カボチャのお菓子?」

「ええ。今日はハロウィン、でしょう? 料理の特訓も兼ねて、作ってみようと思ったのです」


その結果がアレだ。

頑張る女の子は好きだし、応援したいと思う。


「ナタリアさえ迷惑じゃなかったら、一緒に作ってもいいか?」

「……付き合ってくださいますの?」

「俺が勝手に付き合いたいだけだよ」


ふふっと柔らかく微笑む彼女を見ていると、彼の考えていることなどお見通しのようだ。

ちょっとの不満と照れくささを抱え、調理場へと足を踏み入れた。

清潔なそこは、努力の跡が痛々しくもよく見える場所に変わり果てていた。


「ナタリア」

「はい?」

「頑張ったな」

「何の話ですの? 確かに何度か試作品は作りましたが」


本当に意味が分からないと言う顔をするものだから、それ以上触れなかった。


「じゃあ、早速始めるか」

「ええ。あ、これが今回のレシピですわ」


手渡されたものに目を通す。

大丈夫。きちんと協力できる簡単なものだった。

数十分後、二人の努力の結果がそこに出来上がっていた。


「完成、ですか?」

「だな。綺麗な焼き色じゃないか」

「……」


じっと見つめる彼女の瞳はこぼれんばかりの光輝く星のようだった。

感動、という単語が一番簡単に言える一言。


「ナタリア?」

「ありがとうございます!」


ぎゅっと力強く両手を握られてしまった。

一瞬のときめきは胸の片隅に閉じ込める。


「お礼を言われるようなことは何も……」

「貴方がいなければ、ここまで来られませんでしたわ」


お姫さまらしい優雅な仕草で彼女は感謝を形に表す。

それは多すぎる程のご褒美だった。


「ナタリア、ハッピーハロウィン」



2015/10/28



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