パスカル




いつも騒がしい彼女が黙ってしまっている。

黙らずにはいられなかったのだろう。

酷い熱を発し倒れたのが、おそらく1時間ほど前の出来事だった。

約束の時間になってもいつもの場所に現れなかったため、彼女の家を訪ねた。

そこで、玄関先で倒れているパスカルを発見したのだった。

そんな彼女の姿を見つけた時の心境をわかって頂けるだろうか。

一瞬で心臓が止まり、次の瞬間馬鹿みたいな速さで動き出した。

慌ててベッドに寝かしつけ、熱を下げる準備をした。

多分御飯なんて食べていないだろうから、おかゆと果物を用意する。

苦しそうに呼吸を繰り返す彼女の傍らに座り、祈りを捧げるように手を握っていたのが少し前の出来事だ。

思っていたよりすぐに目を覚ましたパスカルは辺りを見回し、彼に視線を向け、それから布団に潜り込んでしまった。


「パスカル?」

「……ごめん」


長い沈黙の後で飛び出した三文字。

彼が望んでいた言葉では無かった。

いつものパスカルとは程遠い痛々しい声。

喉もかなり痛んでいるに違いない。

布団をそっと捲り、彼女に触れた。

まだ熱い。

そう簡単に治まりはしないだろう。


「大丈夫かなんて聞いても無駄だから訊かないけど、何をしたんだ? 無茶しなきゃならないような問題は無かったはずだろう?」


彼女のスケジュールを把握しているわけではないが、大きな仕事があれば彼の耳にも入るはずだ。


「……怒らない?」

「怒られるようなことをしたんだな」


一般の成人女性よりは子供っぽいパスカル。

研究面では素晴らしい頭脳をみせるけれど、それが日常生活になると若干落ちる。

馬鹿やら阿呆やら口にしたのは、一度や二度では無い。

勿論、愛情込めての言葉だとここで宣言しておきたい。


「輝石のことでちょっと……」


パスカルのことだから、誰かのために、が頭につくのだろう。

それで体調を崩せば世話ない。


「今日はゆっくり休め」

「せっかく久しぶりのデートなのに?」

「そんな調子じゃ無理だろ。心配すんな。愛情たっぷりで面倒見てやるから」

「顔、怖いんだけど」

「気の所為じゃないか?」


愛情たっぷりの看病を受けたパスカルは体調管理に本気を出したとか。



2017/05/01



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