オレンジ色の時間




ハァ……と吐き出した息は気温に関係なく白く見えた。

自分は今緊張している。

そんなこと改めて確認しなくてもいい。

指先に届かない血液がそこを凍らせているようで、とても冷たい。

両手を祈るように組んだ。


『明日時間あるか?』


そう問われたのは昨日の放課後。

特に予定も何もなかったので、彼女は素直に頷いた。

聞かなくても真広は知っていたような気もするけれど。

彼女の答えに彼は満足げに頷き――それはそれで何か怖かったが――時間と場所を指定した。

疑問を口にすることなく、素直に頷いた。

断ることなんて怖くてできない。

怖いだけじゃなくて灯火程度の憧れも抱いているけれど、やはり恐怖心が勝ってしまうクラスメートだ。

指定された時間の十分ほど前に到着した約束の場所。

真広の姿はそこになく、一先ず安堵した。

どれだけの時間待たされても、何か思ったりしないのだろうな、と冷めた心が囁く。


「待ったか?」

「ううん。今来たとこ」


漫画のデート場面での定番の台詞。

けれど、事実だから仕方ない。


「ちょっと歩くけど、大丈夫か?」

「そんなにやわじゃないから、多少の距離は大丈夫だよ」

「……そういう意味じゃなかったんだけどな」


小さすぎる呟きに彼女は何も返さなかった。


「綺麗な夕焼けだね」

「あ? まあな」


気のない返事が返ってきた。

他に意識が奪われていることがバレバレだ。

彼は何を言いたくて今日誘ってきたのだろう。

何を言われるのだろう。

この空気から逃れたくて紡ぐ言葉は彼の一言で次々と撃ち落されていく。

逃げ帰りたい。

素直な感情に従いたくて仕方ない。


「不破くん。私、そろそろ……」

「なあ」


帰りたいと最後まで口にできなかった。

もう一度言い直す勇気はなく、何と小さな声で言葉を返した。


「お前さ、今日何の日か知ってるか?」

「今日? 10月さんじゅ……ああ、ハロウィン、かな?」

「……知ってたのかよ」

「悪いの?」

「別に」


別にという顔をしていない。

何が不満なのだろう。


「じゃあ、不破くん。トリックオアトリート」

「……ほら」


ラッピングされた可愛らしい小箱が出てきた。

どうリアクションをとればいいのかわからず、とりあえずそれを凝視した。


「変なものじゃないからな。ほら」

「あ、ありがと?」


受け取って暫し悩んだ上で、リボンを解く。

中から姿を見せたのは、小さな星の飾りがついたネックレスだった。

百均やそれ程度の金額のものではないことはすぐにわかった。


「これ、何?」

「何だよ、そのリアクション」

「え、だって、甘いものじゃないし……」

「要らなかったら、返せ」

「私が貰っていいの?」

「悪かったら、渡さねえって」


まじまじと手元を見つめる。

可愛い。趣味のいい飾りにドキドキが止まらない。

違う。ドキドキするのはそれじゃない。


「   」


真広が初めて彼女の『名前』を呼んだ。

これ以上熱を発生させないでと願う。

これ以上近づかないでと心から願う。



2015/12/10



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