パンプキンにキャラメルホイップ




ふわあ……と大きな欠伸を一つ。

眠たいと口の中に言葉を溶かす。

声に出せば睡魔に襲われるような気がしたから。

どんなに眠たくても今は眠れない。

特に大きな仕事はないけれど、いつどんな任務が舞い込んでくるかわからない。

だからこそ、休める時に休んでおかなければならない。

そんなことはとっくにわかっている。

わかっているけれど、今はちょっとぼんやり無駄な時間を過ごしたかった。

自分という存在を確かめたかった。

簡単に言えば、ぐだぐだとしたかっただけだ。


「あ、いたいた!」


金色の髪が眩しい光を放つ。

年齢より幼く見えるニャンペローナの中身が走ってきた。

どうやら彼女を探していたらしい。

探される理由に心当たりはない。

任務なら効率的に連絡してくるだろうし、わざわざ探し回ったということは、大した理由ではない。

そう結論づけた彼女は與儀に手を振った。


「おやすみ」

「酷いよ!」

「冗談だって。それで、何?」

「ねえ、見て!」


差し出された皿に乗っていたのは、ケーキだった。

そのスポンジの色は普通よりも黄色い……いや、オレンジ、かもしれない。

そのスポンジにたっぷり乗っているのはホイップクリーム。

見るからに甘ったるそうなそれに、一瞬眉を顰めてしまった。


「……何?」

「特製パンプキンケーキだよ。一緒にお茶しよう?」

「お茶をするくらいなら付き合うけど……」


その糖分の塊を摂取することには抵抗がある。

甘いものは嫌いじゃないし、どちらかと言えば好きだけど、この場合それは関係ない。


「與儀」

「んー?」


ささやかなお茶会の準備に勤しむ彼の邪魔をするのは忍びない。

けれど、このまま黙っているのも何だかおかしい。

話のきっかけ作りとして、いつもの彼らの名前を出した。


「无とか花礫……それに、ツクモは?」

「ん? みんなにはフラれちゃった」

「消去法で私なんだ」

「そういう意味じゃなくて……!」


そんなに慌てなくていいじゃないかと思う。

やましい何かを隠しているようで、ほんの少し……ほんの少しだけ、寂しい。

いや、この感情は寂しいじゃない。


「せっかくだから、お菓子か悪戯、どっちがいい?」

「せっかくだからって何? 與儀ってホント子どもっぽいよね」

「何それ。無理に大人ぶってる君よりはいいと思うよ」

「大人ぶってません。大人なだけです」

「本当の大人は自分で大人大人言わないよ?」


それには頷ける部分があり、思わず黙ってしまった。

與儀に口で負けるなんて悔しい。

彼の襟元を引っ張って顔を近づける。

悔し紛れにその額にキスをお見舞いしてやった。



2015/12/07



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