金平糖ってありですか?




ほんの少しの冷たい空気は熱を帯びた頬を冷ましてくれる。

体にこもった熱を吐き出すようにため息をついた。

自分は何故こんなに憂鬱そうにしているのだろう。

ふと浮かんだ疑問に首を傾げた。

心を蝕むことなんて今は何もない。

幸せだと胸を張って言える。

それなのに、何故憂鬱な溜め息を零してしまうのだろう。

誰か教えてほしい、なんて思ってしまう。

自分のことなのによくわからない。

自分のことだからこそ、よくわからない。

思わず膨れてしまった頬に手をやった時だった。


「エステル」

「!!」


背後から聞こえた声に驚き、もしかすると軽く飛び上がってしまったかもしれない。


「ど、どうしました?」


声が上擦っている。

何もやましいことなんてないのに、ドキドキと心臓が速度を上げる。

驚きとは違うドキドキも混じり合って、心がついていけない。


「ん? どうしたって聞かれるほど大したことじゃないんだけど……」

「だったら、いきなり名前を呼ばないでください。驚きます」

「驚かせたのか。ごめんな、エステル」

「謝ってほしかったわけじゃなくて……」


上手く言葉が出てこない。

それが歯がゆい。


「あ、そうだ。トリックオアトリート!」

「お菓子……です?」

「うん。悪戯希望ならそっちでもいいけどな」

「ちょっとだけ待ってください!」


早口でその言葉を吐き出してしまった。

エステルが何を想像してしまったか考える彼は楽しそうだ。

玩具にされている感が否めない。

ポケット、鞄の中……。

そこら中を手探りで探し回る。

そんな彼女が差し出したのは色鮮やかな小さな星。

コロコロ転がる小さな星。


「……金平糖?」

「はい、正解です」


一つ手に取って口に放り込んでみた。

甘い砂糖の味が舌を刺激する。

甘ったるい。

それは慣れない恋愛をしているように甘ったるい。


「エステル」

「はい?」


この甘さから逃れたくて、彼女の愛らしい唇にそっと唇を寄せた。


「ちょ、何するんです!?」


真っ赤に染まった顔で怒られても迫力はない。

むしろ可愛いなあと微笑ましく見つめてしまうだけなのだが、彼の視線に気づいたエステルはその可愛い顔を隠してしまった。


「もったいない」

「何がです!?」

「せっかくの可愛い顔が見れなくて」

「可愛くなんてないです!」

「そうかな。俺は好きなんだけど。桜色に染まった皇女様の顔」


この場から走って逃げたとしても、きっとすぐに捕まってしまう。

エステルは顔を隠すことしかできなかった。

そんな彼女もやはり愛らしくて彼は笑い声をもらす。


「笑うなんてひどいです!」

「可愛すぎるエステルが悪い」


握りつぶされそうな勢いの金平糖を彼女の手から救い出し、もう一度口に転がした。



2015/12/07



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