吸血鬼になりたい人集合




「ハロウィンだよ、ユーリ!」


朝っぱらから乱暴に扉を開かれ、開口一番そんな言葉。

寝起きで着替えようとしていたユーリはとりあえず一応自分の動きを完全に止めた。


「あ、着替えてるトコだった? ラッキー!」


何がラッキーなのか百文字くらいで説明してもらいたい。

着替えているとわかったなら、まずは部屋から出て行ってもらいたい。

最低でも扉は閉めてもらいたい。


「出てけ」

「え? 何で? こんなラッキーなタイミングで出て行く訳ないじゃん」


大きな紙袋をテーブルに乗せ、そこでようやく扉を閉めた。

その袋をがさごそと漁り、黒い布を取り出す。

そのままユーリに向かって差し出す。


「……?」

「何不思議そうな顔してるの? ユーリのために用意したんだから、喜んで受け取ってよ」

「オレのため? 何が?」

「衣装だよ、衣装」

「……衣装?」


まったく何を言っているのか理解できない、そんな顔でユーリは普段着に腕を通す。

それを全力で止められた。

そのまま彼の服は飛ばされる。

拾いに行かせる気かと視線を鋭くしたが彼女にはまったく効果がない。

普段着の代わりに別の衣装を渡された。

これを着るしかないのかとため息一つ。


「着替えの邪魔はしないから、どうぞ」


このタイミングで彼女は部屋を出た。

左手に視線を一つ。

溜め息が何度もこぼれ落ちるが、彼女のお遊びに付き合うしかないようだ。


「着替えたぞ」


おそらくそこにいるであろう彼女を扉を開けて迎えた。


「ハッピーハロウィン!」

「全然ハッピーじゃねえよ」

「似合ってるよ、吸血鬼さん」

「ほう……」

「ん? 私は妖精だよ」

「見ればわかる。頑張って作ったんだな」

「わかる? 特にこだわったのは、この刺繍の部分でね」


彼女は袖の部分と広がるスカートを摘まんだ。

相変わらず裁縫の腕はプロ並みだ。

それを仕事としないのは、嫌いになりたくないからだそうで……。

ユーリにはその辺のことがよくわからなかった。


「ユーリ、ユーリ。せっかくだから、このまま出かけようよ」

「お前はオレに死ねって言うのかよ」

「……? 外を歩くだけだよ? 何かを奢ってもらおうとか思わないよ?」

「そうじゃなくて……」


いい年をして、この格好で人前で歩くことにかなりの抵抗がある。

多少変わった格好をしたこともあったけれど、今日この日にこの格好は嫌だ。


「んー……。なりきれば、別に恥ずかしいとかないと思うけど」

「なりきれば?」

「そ、なりきれば」


お望みの吸血鬼らしく彼女の首筋に噛みついてやった。


「ちょ、ユーリ!?」

「オレは吸血鬼だからな。お前の血もらおうと思って」

「……美味しくないよ?」

「お前なら甘くて美味いと思う」

「いや、まったくもって美味しくないです」


両手を顔の前でばたばたと振っているが無視をする。

柔らかく噛みついたそこを舐めてやれば、彼女は体を震えさせた。


「血を飲まれたら、お前も吸血鬼か?」

「は?」

「大切な仲間だもんな」


ニヤリと嫌な笑い方一つ。

背筋がゾクリと震えたのだろう。

本能的な危機感。

そんなもの今更遅いとユーリは笑う。

そんなハロウィンの朝。



2015/11/30



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