砂糖と蜂蜜が降ってきた!
※シノア友情出演(笑)
※かなりの出演率
退屈な日常だと思う。
自分は戦いに身を置く者。
生きるためには様々な意味で戦っていかなければならない。
そんなこと、とっくにわかっていたはずだった。
こんな世界で現実から目を背けられるはずなんてなかった。
溜め息は何とか飲み込む。
それでこの中の感情を整理できるわけではないけれど。
何もしないよりマシだと自分に言い聞かせた。
ボールペンを指先で遊ばせていたが、それは彼女の心を表すかのように飛んで行った。
「こんにちは」
「シノア?」
「はい。ところで、ハロウィンってご存知ですか?」
転がったボールペンを拾った彼女はソレを差し出した。
「ハロウィン?」
初めて聞く単語だと友人であり、戦友でもあるシノアに聞き返す。
「はい。大好きな相手――貴女の場合、優さんですが。大好きな相手に甘ったるいお菓子をプレゼントする儀式です」
「儀式……何か怖いね」
「でも、上手くいきますよ。だって呪術的効果も証明されているのですから」
「さらに怖い……じゃなくて、なんでそこで優の名前が出てくるの!?」
「え、優さんのこと嫌いでしたっけ?」
「好きだけど、あ」
クスクスとシノアが笑う。
それは何やら意味ありげで怖い。
「……シノア」
「はい。何でしょう? いいじゃないですか。不純異性交遊」
「よくない」
「そうですかぁ?」
完全に玩具にされてしまっているとやや膨れて見せた。
それすらも楽しんでいる彼女。
つまり何を言いたいのかと言うと、一緒にお菓子を作ろうという話だった。
それならはじめからそう言ってほしい。
遠回りされて得なことなんて何もない。
二人でやけに静かな調理室へ向かう。
突然で材料も何も……と思っていたら、シノアがレシピを含めすべて用意していた。
「準備いいね」
「はい。貴女と優さんを応援するためでしたら、努力を惜しみません」
「……」
とてもいい笑顔だった。
それから1時間と少し。
甘ったるい匂いに囲まれながら、甘ったるいお菓子が大量にできた。
「さすがですね。今すぐ、お嫁に行けますよ!」
「いやいや、お嫁の予定一切ないから」
ラッピングした量も明らかに多すぎる。
それを優一郎に渡せと抱えさせられた。
彼女のシナリオを歩まされている感が否めないが、そんなに嫌とは思わない。
優一郎を探すためにそこらを歩き回ることになった。
「優!」
「ん?」
彼が振り返った瞬間に悲劇は起こった。
足が何かに引っかかった。
不器用ながらに愛情を込めて作ったマフィンが空を飛ぶ。
スローモーションではっきり目に映る。
派手に転ぶことはなく、掠り傷一つ負わずに済んだ。
けれど、それらは綺麗に地面に転がっていた。
努力の結晶が予想外の形で終わりを迎えた。
泣きたくなっても許されるのではないかと思う。
「うまいぜ」
落っこちたマフィンをかじり、優一郎は笑った。
「え、ちょ……。何なの、その男前な感じ」
「? お前が作ってくれたヤツを食べないなんて勿体ないにもほどがあるだろ」
「……バカ優」
「何だよ、その言い方」
「ありがとう。これ、ハロウィンだから作ったんだよ」
「ハロウィン……? お菓子をくれないと悪戯するぞってやつか」
「え?」
シノアから聞いたものと違う。
騙されたと知ったのはその時だった。
2015/11/30