悪戯でいいの?




冬支度を始めたばかり。

そんな秋真っただ中、10月の終わり。

部屋は散らかっている。

一応冬物を出そうかという努力の成果だ。

結果を見ると押入れの中身を派手にぶちまけただけ。

整理整頓が苦手だということが再実感できただけ良かったとプラスに考えよう。

手元にある服を持ち上げてはそのまま床に下ろす。

今日中に片づくのだろうか。

溜め息と共に部屋を見回すと、ソレが目に入った。

マフラーはまだ早いかと思いつつも手に取る。

少し毛羽だった表面。

去年あれだけ愛用していたから当然と言えば当然かもしれないが、少し寂しい。

変な感傷に浸りかけた時、机の上の携帯が着信を告げた。


「もしもし?」

『良かった。出てくれて』

「? 何か急用か?」

『急用ってほどじゃないんだけど、ちょっと会えないかな?』

「君が望むなら、いつでも飛んでいきますよ?」

『ふふ、ありがと』


冗談に取られてしまっただろうか。

わりと本気だったのだけれど。

彼女が呼んでくれるなら、彼女が必要としてくれるなら、何をしていたって走っていく。


『じゃあ、いつもの場所でお願い』

「すぐに行くよ。遅くなったら、待ってて」

『こちらこそ』


すぐに家を出ると早く着いてしまったらしい。

携帯を触りながらふと顔を上げると、長い赤髪が目に入り手を振る。


「江、ここ」

「お待たせ。ごめんね、呼んでおきながら待たせて」

「俺が勝手に早く来ただけだから」

「ホントに? いつも気遣ってくれるんだから」

「そんなにできた人間じゃないからな?」


自分に正直で自分に甘い。

まだまだ子どもだなと思うことは多々ある。

子どもであることは事実だけれど、何故かツラくなることも多い。

早く大人になりたいと望んでいるのだろうか。


「トリックオアトリート!」

「……それが言いたくて俺を呼んだのか?」

「半分くらいはね」


お菓子と突然言われても持っていな……。

何気なく探ったポケットから、チョコレートが飛び出した。

今朝台所からパクったものだった。


「ほら、江」

「……まさか用意してるとは思わなかった。予想外」


ハロウィンパッケージの小さなチョコレートを受け取りながら、心底驚いた様子で江は言った。

確かに持っていたのはたまたまだ。

母親が面白がって買ってきただけだろう。


「トリックオアトリート。って俺が言ってもいいよな?」

「もちろん」

「じゃ、お菓子くれないと悪戯するぞ?」

「はい、これ……あれ?」


江は鞄から手を出さない。

ごそごそと漁っている右手がなかなか出てこない。


「……江?」

「……」


苦笑を浮かべた彼女の瞳とぶつかり、事情を察知してしまった。

用意していたはずなのに、持ってくるのを忘れたのだろう。


「……」


改めて感じる沈黙。

鞄から手を出し、江はゆっくり息を吐き出した。


「ごめん。持ってない……」

「つまりは悪戯ってことか」

「……どうぞ!」


まるで告白の返事待ちのように、江は強く目を瞑って両手を差し出した。


「……江?」

「な、何?」

「悪戯されたいの?」

「されたくはないけど……。痛いこととか怖いことはしないでしょ?」


信頼していると彼女は答えた。

悪戯なんて思いつかない。

何もするつもりなんてないけれど、取り敢えずは保留だ。


「ちょっと喉が渇いたから付き合ってもらえるか?」

「え? うん、いいけど」


迷っている様子の彼女の手をとり歩き出す。

ハロウィンって何なのだろうか、と考えながら。



2015/11/07



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