高すぎる空と夕暮れの僕たち


制服姿のままで他校の正門で待つ。

ちょっと憧れるシチュエーションだと思う。

左手首の腕時計で確認すると、約束の時間まで10分程度。

待たせるのが嫌で終わった途端学校を飛び出して来たから、思ったより早く到着した。

これで凛を驚かせることができる。

すました顔を壊してやれる。

ドキドキとわくわく。

子どものような感情を胸に飼い慣らしながらその時を待つ。

そう待つことのなかった現れたその人に駆け寄った。


「凛くん!」

「杏樹、早すぎだろ」

「凛くんに会いたい気持ちが先走りました」

「……そんな報告要らねえよ」

「だと思ったけど、言ってみたかった」


それは嘘ではない。

会いたいと叫び続ける心はうるさくて自分でも負けそうになる。

凛の傍にいないと自分は死んでしまうのではないかという錯覚にさえ陥る。

これが『恋をする』ということなのだろうか。

そんなことを考えると、頬が勝手に熱を持つ。

心臓がハムスターに回された滑車のようにクルクル動き回る。


「で、今日はどこ行きたいんだよ」

「貴重な部活休みだから、凛くんのために使いたいな。……走ってみる?」

「体力不足と運動音痴直してからにしろ」

「……」


言い返せないのがツラい。

凛の真似をして水泳を始めてみようとして、溺れた。

それは学校が軽く大騒ぎするような事態になった。

先生のいないところでは泳がないでおこうと決めた。


「じゃあ……」


どこに行こうかと頭を悩ませれば、左手を掴まれた。

先に驚いて、次にドキドキが襲ってきた。


「凛くん!?」

「杏樹待ってたら、日が暮れる。取り敢えず、適当に歩くぞ」

「は、はい」


優しい力で引っ張ってくれる凛についていく。

杏樹に合わせてくれる凛は、最初の頃になかった優しさだと思う。


「凛くんみたいな空だね」


綺麗な橙色がグラデーションを作っている。

凛のイメージカラーとは違うけれど、凛のような空だと思う。

綺麗な横顔を眺めながら、そんなことを考えていた。


「俺は杏樹みたいだと思うけどな」

「私みたい?」


予想しなかった言葉に首を傾げる。


「あったかい感じがな」

「あったかい……?」

「あんまこんなこと言わねえけどさ。杏樹と話すとあったかい気持ちになるんだよ」

「……ホント?」

「癒されてるっつー感じか?」


凛の口からそんな言葉が飛び出すとは予想もしていなかったから、ぽろりと涙がこぼれた。

慌てて両手でその雫を払う。


「杏樹!?」

「ごめ、その……嬉しくて?」

「何でそこが疑問形なんだよ」


こつんと優しいゲンコツをお見舞いされた。


「杏樹」


凛が彼女の名前を呼ぶ。

心地よい響きが耳に届き、杏樹はほんの少し恥ずかし気に返事をした。


「何?」

「こっち来い」


気づかれてしまったのだろうか、この絶妙な距離感に。

ちょっとした敗北感を抱きつつ、一歩二歩と足を進める。


「凛くん?」

「杏樹」

「何?」


後頭部に手を添えられ、そのまま抱き寄せられた。

凛の肩と杏樹の額がこっつんこ。

凛の声が随分近い距離で聞こえる。

ドキドキバクバクと心臓が暴れまわる。


「凛くん!」

「俺だけ好きとかズルいだろ。もっとドキドキしとけ」

「意地悪!」

「杏樹限定でな」


空は遠くて届かないけれど……。

掴まえておきたい人はここにいる。



高すぎる空と夕暮れの僕たち



title:icy



(2015/12/19)


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