君に愛されずに死ぬのだろうか


ため息をつくと幸せが逃げるらしい。

だったら、ため息をつかなければ幸せは逃げないのだろうか。

望む幸せをこの手に閉じ込めておくことができるのだろうか。

そんなこと無理だとわかっている。

何も知らない無知な子どもでいられたのは、ほんの少し前のこと。

それは大きな罪も同時に背負う出来事だったけれど。

怖いという感情はこういう時に使うのだと初めて知ったような気がした。


「アンジェ」

「ああ、ルーク。どうしたの?」


お姉さんぶった微笑み。

少し前は大嫌いだった笑い方が今では好きになっていた。

彼女には自分が歩く先に立っていて欲しい。

太陽と同じような目標であってほしい。

絶対に見失わない存在。

それは嵐の夜の灯台に酷似した……。


「ルーク?」

「何でもない」

「もう少し嘘が上手くなった方がいいかも。どこかの誰かさんまでいったら可愛げないけどね」


クスクスと笑うアンジェにそっと近づく。

一歩ずつ埋める距離をアンジェは何も言わずに見ている。

ルークがどんな行動を起こすのか試すように。


「アンジェ」


壊れ物に触れるように抱きしめる。

嫌がられるかとも思ったが、アンジェは振り払ったりしなかった。

素直にそれを受け入れてくれた。


「どうしたの、ルーク」


それは母親のような声音だった。

会ったこともないユリアのようだとも思った。


「アンジェ、アンジェ、アンジェ」


何度も何度も彼女の名前を呼ぶ。

それはここにいるのだと感じようとしているように必死に。


「ルーク、ほら。放して?」


ぽんぽんと背中を叩かれて吐き出された言葉に一瞬の深い絶望。

喉が渇いて声がはりついた。

ただ嫌われたくなくて放した。

視線を絡める勇気がなく、地面をぎゅっと睨む。

次の瞬間、アンジェに抱きしめられていた。


「やっぱり、こっちの方が落ち着く。ルークにぎゅっとされるより、私がぎゅっとする方が自然っぽくない?」

「……」

「あれ、違う?」


クスクスと楽しそうな笑い声が耳をくすぐった。

くすぐったいけれど、嫌じゃない。

むしろ心地よい。

ずっと聞いていたい。


「ルーク、どうしたの? 黙ってちゃわからないよ?」

「……アンジェ」

「はい、なーに?」

「アンジェ、俺……」


言葉が続かない。

自分で拒否しているのか、それとも……。

モヤモヤと瘴気のような心を蝕むソレは、これは預言(スコア)に記されたものなのだろうか。

『自分』は預言に存在しない者だというのに、そんなことを思ってしまう。


「アンジェ、俺、頑張る」

「……うん」

「だから、アンジェは……」

「無茶はお姉さんが許さないよ?」

「あ、うん……。でも!」

「言い訳とか聞かないし。バカな真似する悪い子にはお仕置きするよ?」


きっと可愛げのない顔で可愛い悪戯を考えているのだろう。

そんなアンジェが愛しい。


「アンジェ、傍にいてくれてありがとう」





俺はここで終える。

アンジェたちの未来のために。



君に愛されずに死ぬのだろうか



title:icy



(2015/09/27)


| 目次 |
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -