グレルサイド街道を来た時とはまた違う感覚で歩く。

一度歩んだ道だからか、心強い仲間を味方につけたからか、理由は色々ある。


「そう言えばレアル、聞くのを忘れていたんだけど」

「何ですか」


隣を歩くリチャードが好奇心を宿した眼差しを向ける。

これはあまり良い内容ではないなと直感し、レアルはさらりと彼の視線を躱す。

当然それは意味のないことで、リチャードは自身が口にしようとした言葉を彼の外に放った。


「パスカルさんとのデートはどうだったんだい?」


リチャードの問いかけは予想の範囲内だった。

だから驚く必要はなく、小さすぎるため息をこぼしただけ。

けれど、アスベルは異様に反応していた。


「でっ、で、デート!? そ、それは、その、つまり……レアルとパスカルは……」


それはギャグかと突っ込みたくなるほどに取り乱していた。

彼はこの手の話が苦手なのだろうか。

それとも世間一般の同年代の反応は彼が正しいのだろうか。


「アスベル、デートって何? レアルとパスカルが出かけることをデートって言うの?」

「あ、その、ソフィ……。デートって言うのはな、うん……」


上手く説明できずに、アスベルは歯切れの悪い単語をポツポツともらすだけ。

このままでは余計な誤解が生まれそうだ。


「ソフィ」

「何、レアル」

「デートって言うのは、男女が一緒に出かけることを言うんだ」

「レアル、「互いに好意を抱く」が抜けてるよ」

「殿下、余計なことは仰らないでください」

「パスカルはレアルが好き?」


こてんと頭を傾けたソフィが一定の距離を保ったままパスカルに尋ねる。


「もちろん。でもソフィの方が――」

「レアルはパスカルが好きなの?」

「好きでも嫌いでもない」

「酷っ!! レアル酷っ!! デートした仲じゃん!!」

「……ただの散歩だった感が否めないけどな」


リチャードはそこで目を丸くした。

レアルはパスカルの子ども染みた可愛らしい暴力を受けていたから気づいていないが。

リチャードは大きく見開いた瞳をやがて穏やかな眼差しに変えた。


「それでパスカル。リチャードが言うようなデートじゃなかったんだな?」

「まーね。ソフィとはすぐに仲良くなれそうになかったから、先にレアルと仲良くなってみたってこと」

「仲良くなってないから」

「照れることないよ」


随分ペースを崩しにくる女性だとレアルは思った。

普段の自分ではいられなくなる感じに戸惑い、視線でリチャードに助けを求めた。

仮面越しと言えど、リチャードとはそれなりに長い付き合いなのだから彼はすぐに気づいてくれた。

その上で「がんばれ」とよくわからない応援を頂くこととなる。


「……先を急ぎましょう」


下手な逸らし方だと思ったが、今はこうでもして無理に話から逃げ出すしか道がない。

若干速度を上げたレアルに全員続いた。

特に問題なく、ウォールブリッジ地下遺跡に到着した。

この遺跡から上に出る場所を探す。

パスカルが「あたしに任せて」と先頭に立った。

スキップでもしてしまいそうな彼女に続く。

しばらく進むとパスカルは振り返った。


「到着! ここだよ〜」


思ったより随分近かった。


「さて、ウォールブリッジ潜入の前に、手順を確認しておこうか」


彼らの前に立ち、リチャードが説明を始めた。

ウォールブリッジは南北に分かれ、それぞれが別に動く形になっている。


「僕たちが最終的に目指すのは南側の橋をおろして、かつ門を開ける事だ。その際、南側の橋だけでなく北の橋を上げてしまえば叔父方の増援を断つ事もできる。できれば両方の橋を僕たちの手で動かしたい」


その通りだと言わんばかりに全員が頷いた。

北橋を上げて、南橋を下ろす。

それが簡単にまとめた今後の行動だった。


「それじゃパスカルさん。動かすのをお願いしていいかな?」

「了解〜。こんなのパカパカポコってやれば楽勝だよ」


ここから作戦が始まるとレアルは気合いを入れ直した。

今度こそリチャードを守ってみせる。

ウィンドルを取り戻してみせる。

難しくともできる限り被害を最小限にして……。

色々と考えている自分は随分強欲だなんて思ってしまう。

すべてはリチャードのためなのだが、そのために望むことの多さに笑ってしまった。

気合いが空回りしないように気をつけなければならない。

決意を改め、移動装置に足を踏み入れた。

景色が変わると全員武器を構える。

待ち伏せされてはいなかった。

そこはひとまず安心できた。


「叔父の軍勢のただ中だよ。急いで事を済ませないとね。捕まってしまったら最後だから。よし、そうしたらまずは北橋を上下させる装置の所を目指すとしよう」


ウォールブリッジ内部に関して言えば、リチャードが一番詳しいだろう。

けれど、彼一人先頭に立たせるのは危険すぎる。

かと言ってレアルがリチャードの隣に並ぶことは許されない。


「アスベル」

「何だ?」


こういうことを彼に頼むのが一番だろう。

レアルが言葉を発する前に察知したリチャードが微笑を含んだため息をこぼす。

その表情を見る限り、レアルは心配しすぎだ、僕を信用できないのかと言っている。

それとこれとは話が別だ。


「アスベル、殿下の隣を頼む」

「わかった」

「わたしも」


アスベルがリチャードの左に立つと、ソフィは右に立とうとした。

けれど、それをリチャードは拒んだ。


「その……ソフィはレアルと一緒にいてくれるかい?」

「……リチャードが、そう言うなら」


寂しげに瞳を伏せ、ソフィはレアルの隣に立った。

ここで何かを言うべきなのだが、何も浮かばない。


「ソフィ、レアルよりあたしと一緒にいようよ〜。いっぱい話して、仲良くなろ〜」

「嫌」


ぷいっとパスカルから顔を逸らす。

そんな彼女の様子に相変わらずだな、とレアルは心の中で笑っておいた。


「みんな、少しは緊張感を持てよ」

「アスベルは緊張しすぎだと思うけどな」

「リチャード!!」

「さあ、行こうか」


クスクスと笑いながら、リチャードは足を進めた。

レアルは左右背後に意識を向けながら彼らに続く。


「わたし、レアルのことちゃんと守るね」

「……ありがとう、ソフィ」


咄嗟に出かけた否定の言葉を飲み込み、彼女を傷つけないであろう言葉を選ぶ。

それは間違いではなかったらしく、ソフィは力強く頷いた。

運が良かったのか、ほとんど誰にも見つかることなく目的地に着いた。

アスベルがレバーを動かすと北橋が動いた。


「ここまでは予定通りだな。次はいよいよ南橋のほうか」


リチャードは頷く。

順調に進んでいる分、ここで気を抜いてはいけない。


「南橋を下ろして南門を開けるんだ。行こう。南門を開ける部屋に入るための鍵が、中心部の中央塔にある。まずはそこへ向かおう」



2014/01/26


 

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