マリアは自室のベッドに寝転んでいた。

今日は休日だから、学校へ行く必要はない。

無駄に時間を過ごしたいわけではないのだが、起き上がるのがダルい。

ゴロゴロと狭いスペースを行ったり来たりした。

どれくらいの時間が経ったのだろう。

時計を見ることすらも億劫だ。

このまま眠ってしまおうかと意識を夢の入り口に立たせたが、生憎その扉を叩くことはなかった。

勢いをつけて起き上がる。

そのまま、ぐしゃぐしゃに乱れた髪に手を通し軽く整えた。

部屋を出てリビングに向かうと、そこにはアスベルがいた。

自分の席に着き、本を読んでいる。

漫画のようではないから、学校の課題か何かだろう。

マリアは彼の前に座り、頬杖をついた。

随分集中しているらしく、それともマリアのことなど気にしていないのか、彼は本から目を逸らさなかった。

しばらく弟の真剣な表情を見つめる。


「足りない」


ポツリと呟けば、それに反応してアスベルが顔を上げた。


「姉貴?」

「足りないのよ」

「何が?」


足りないのはマリアの言葉だった。

それでも彼女は何かを足そうとしなかった。

ただふわりと笑い、真っ直ぐにアスベルを見つめた。


「……何?」

「アスベルって女の子にモテたりするの?」

「!?」


面白いくらい派手なリアクションを見ることができて、マリアは少し満足する。

これは肯定しているのだろうか。

もう少しストレートに聞いてみることにした。


「アスベルってラブレターもらったり、告白されたりするの?」


更に派手なリアクションだった。

ゲホゲホと咳き込む姿を見ると、少しいじめすぎたかと反省する。


「アスベル、大丈夫?」

「あ、ああ……」


あまり大丈夫そうではなさそうだ。


「何で姉貴はいきなりそんなこと言い出したんだよ」

「いや、特に意味はないんだけど……。たまには、弟の恋愛事情を探ってみようかと」

「探らなくていいから」

「今、彼女いるの? いつ紹介してくれる?」

「いないから紹介できない」


その言葉は嘘ではなさそうだ。

とりあえず、適当な相づちを打ったあとでもう一つ質問をする。


「アスベルの好みってどんな女の子?」


今度は動揺を見せずに、子どもっぽい笑みを見せた。

つまらない悪戯を企んでいるような……そんな笑顔。


「姉貴みたいな人だよ」


わかりやすい嘘だが、可愛らしい言葉だと素直に受け入れることにした。



バニラエッセンス忘れたでしょ!



2012/06/13
加筆修正 2013/09/18


 

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