*フレン視点



室内に入り込んでくる陽光は鋭いものではなく、誘われるように瞳を開けた。

視界に広がるのは慣れた自室とカルディナの笑顔。


「おはよう。フレン」

「……おはよう、カルディナ」

「朝食の用意はできてるよ」

「……そうか」

「今日は天気がいいから、布団干すね」

「ああ……」


機嫌良さそうに鼻唄を歌いながら、カルディナは部屋を出ていった。

一人になった部屋で僕はため息をついた。

カルディナと迎える朝は、今日で五日目だ。

空いていた部屋が彼女の部屋になったのは、翌日のこと。

そこから少しずつ荷物が増え、いつの間にかこの家に彼女の居場所が作られていた。

カルディナのことは親しい友人だと思っている。

他人に紹介するならば、親友の妻ということになるだろうか。

さすがに既婚の女性と同じ家に住むのはマズいと思うが、カルディナとはそれなりに付き合いがあるせいか妙な空気になることはない。

親しい友人という言葉がピタリと当てはまる。

それが心地よくて甘えている部分もあるのだろう。


「フレン、早く来ないと先に食べちゃうよ!」


飛んできた彼女の声に急かされて、僕は部屋を出た。

数日前まで冷たかった食卓はカルディナの手で暖められている。

焼きたてのパン(多分市民街で有名なあの店だ)に、みずみずしい野菜のサラダ。

あったかいコーンポタージュに、ベーコンエッグ。

熱々のコーヒーとヨーグルトも用意されていた。


「ほら、フレン。早く座って!」


微笑みを携え急かすカルディナに、曖昧な笑みを返しながら席に着く。

本来なら、こんな朝を味わうのはユーリだ。

間違っても僕ではない。

パンを口に運び、カルディナに視線を向けると彼女はふわりと笑った。


「このパン美味しいでしょ。すぐに売り切れる人気商品なんだから」

「市民街の角の店……だったかな。噂くらいは聞いたことがあるよ」

「さすがフレン。誰かさんとは大違い」


そう言ってカルディナは真っ赤なトマトを頬張った。

それ以上その話は発展せずに、穏やかな朝食時間は過ぎる。


「フレン、行ってらっしゃい」

「……カルディナ、そろそろ君は家に――」

「今日の夕飯は何がいい? リクエスト聞くよ? 最近はフレンの好物ばっかり作ってたし……」


どうやら話は聞いてくれないらしい。

それに、まだ帰る気もないようだ。

そろそろユーリに連絡をした方がいいと思う。

もっと早くにすべきだったけれど、最近は忙しくて時間が……それは言い訳にしかならない。

今夜辺り、ユーリに会いに行ってみようか。


「カルディナ。僕、今日は……」

「今日はフレンを迎えに行くね。何時頃どこで待ってたらいい?」


僕の思考を読み取ったのか、彼女はとてもいい笑顔で尋ねた。

そんな彼女に逆らうことなどできず、素直に予定を吐き出していた。



2013/02/12
加筆修正 2013/09/18


 

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