ハピネスの街角
休日の午後。
いつもより遅く起きたアンジェは、特に目的もなく街に出てきた。
のんびり家で過ごしても良かったのだが、何となく。
何となく散歩のように、家を出た。
本音を言えば、会えたらいいな……と思っていたりしたのだが。
無意識に辺りに目をやり、その姿を探していた。
「アンジェ」
「!!」
“会えたらいいな”の人物がそこにいた。
まさか声をかけられるなど思っていなかったアンジェは、心臓がうるさくて上手く返事が出来なかった。
「おい、アンジェ。聞こえてるか?」
目の前で手を振る人物。
「……ソウル、どうしたの? こんな所で。マカは?」
「あのな。いくら職人と武器っつっても、いつも一緒にいるわけじゃねぇって。後、ここにいるのは何となくだよ」
文句あるか。
と続きそうなソウルの声音に、アンジェは吹き出しそうになるのをこらえた。
「何だよ」
「何でもない。特に用事がないなら、一緒に散歩しない?」
「……まあ、いいぜ」
目的があるわけではなく、二人は歩く。
アンジェはちらりとソウルの横顔を見た。
そして、自分の中で何度も頷く。
(やっぱり、カッコいい)
「――って、話をアイツがしてさ。それを聞いた……。おい、アンジェ。何笑ってんだ?」
「えっ。あ、えーっと……その話、面白いね!」
「まだ面白い所までいってねぇけど?」
「……ごめんなさい」
貴方に見とれていました。
などと言えるはずもなく、アンジェは素直に謝った。
「ぼーっとしてるとぶつか――……」
注意を促そうとした瞬間。
アンジェは走って来た子供にぶつかられ、バランスを崩した。
痛みを覚悟したアンジェを包んだのは、優しい温もり。
「危ないだろ。あんまりスピード出して走るな!」
「ごめんなさい!」
余程急いでいたのか、子供の姿はすぐに見えなくなった。
「アンジェ、大丈夫か? だから、ぼーっとするなって……」
アンジェが顔を紅く染めている理由が分からず、ソウルは首を傾げた。
取り敢えずアンジェは訴えてみる。
「えとね、ありがとう。でも、ちょっと目立って恥ずかしい……かな」
人が行き交う場所で、ソウルはアンジェを抱き止めたまま。
「……!!」
ようやく事情が飲み込めたのか、アンジェに負けないくらい赤くなったソウルが離れた。
「わ、悪かったな」
「悪くないよ。ありがとう」
うるさいドキドキを包んだ優しい温もり。
緊張や恥ずかしさより、嬉しさが勝っていたから、何だか幸せだった。
だから、いつもより優しくお礼が言えたのだろう。
「ねえ。手、繋いでもいい?」
「いきなり何言うんだよ」
「だって、許可取らないと怒られるかなって」
「そんな事で怒るか」
「そっか」
アンジェはそのまま勢いで、ソウルの手を握った。
「……」
「……」
お互い緊張したのか、そのまま動かない。
ものすごく目立っているという事を、本人達は気づいていないだろう。
「あ、やっぱりいいや」
手を離そうとしたアンジェを止めるように、ソウルはキツく握った。
驚いたアンジェは反射的に彼の顔を見るが、既に横を向かれていて、その表情は窺えなかった。
「散歩、続けるぞ」
「……うん」
ぎこちなく握られた手。
ドキドキとポカポカが同居する心。
優しい風に後押しされて、二人は歩いた。
アンジェは、何て素敵な休日なんだろうと、感謝しながら。
up 2008/08/26
移動 2016/01/26
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