honey cat


「ねえ、カノ君」

「ん?」

「これ、何?」

「僕の弱点」


嬉しそうな、満足そうな笑みでそう言われた。

弱点と言いながら、すごく幸せそうだ。

杏樹は自分の頭に手をやる。

ふわふわとしたその感覚。

やわらかいソレ。


「似合ってるよ、杏樹ちゃん」


喜んでいいのか、悲しむべきなのか、分からない。

今、杏樹の頭には、黒いネコミミがついていた。



カノンに呼び出され、杏樹がここに来たのが、半時間くらい前だろうか。


「確か、今日ってカノ君の誕生日だったよね」

「うん。はい、開けてみて」


杏樹の話を聞いているのだろうか。

杏樹はカノンに渡された箱のリボンを解く。

自分がプレゼントを貰う事に違和感を覚えながら。

そして、箱から出てきたのが、ネコミミだったのだ。


「……」

「杏樹ちゃんなら、似合うと思うんだ。つけてみて」


カノンの猫好きは有名だ。

けれど、何故自分がネコミミをつけなければならないのだろう。

そして、冒頭に戻るのである。

頭に違和感がある。

カノンの熱い視線が、そこに注がれているから余計に。


「杏樹ちゃん」

「何?」

「ホント可愛いね」

「どーも」


その可愛いが“杏樹”を指しているのか、“ネコミミ”を指しているのか分からず、何だか複雑な気分になった。

「ねぇ、カノ君」

「何だい?」


ギュッと抱きしめられているのだが、素直に喜べないのは何故だろう。

頭を撫でられるのも、普段なら嬉しいのにそれも複雑だ。


「ネコミミをつけるのって、別に私じゃなくてもいいんじゃない?」


もっと似合う子がいるだろう。

それに、もっと可愛い子がつけた方が、もっともっと可愛いと思ったのだ。


「杏樹ちゃんじゃないと、意味がないんだ」

「だから、何で」

「僕の弱点だから」

「ゴメン。よく分からない」

「いいよ。分からなくて」


怒った様子も、寂しそうな様子も感じられない優しい声で、カノンは言った。

杏樹は腑に落ちなかったが、今日は少し違うカノンに甘えてみる事にした。





キミはずっと、僕の弱点であって。


僕が仲間以外に守りたい存在であって。


僕が人間でいられるように、

僕が自分を守れるように、

キミはそこで笑っていて。




up 2008/09/25
移動 2016/01/21


 

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -