彼女的名案


ジェフティに頼まれた買い物も終わり、後は幽霊船に戻るだけ。

ディオとカイトは、重い荷物を手に歩いていた。


「何も忘れてないよな」

「ディオ、それ何回目だよ」


過去に買い忘れから酷い目に遭った。

そのせいか、ディオがその台詞を口にしたのは、七回目。


「大丈夫だよ。メモも確認したし」


そんな事を話しながら歩いていると……。


「カイト様〜!」


背後から聞こえた声。

嫌な予感が空気になって流れる。

二人は顔を見合わせて、苦笑した。

ゆっくり背後を振り向く。

遥か遠くから走って来るのは、お騒がせ魔女・プリンヴェール。

もう一度二人は顔を見合わせた。

カイトは自分の分の荷物をしっかり持つと、ディオに向かって手をあげた。


「じゃ」

「おい、カイト! 親友を見捨てるつもりか」

「ディオ……離れていても親友は親友だから」

「何カッコいい事……てか、当たり前の事を言ってんだよ」

「頑張れ、ディオ」

「おい、待てって!」


ディオが本気で止めようとする前に、カイトはいなくなっていた。

こうなったら、自分も逃げるしかない。


「あら、どちらに行かれるのかしら?」


振り返れば、にっこりと微笑む『銀の小さじ』。


「えと……」

「カイト様は?」

「……帰りました」


微笑みながら怒りを表す彼女に、ディオは一歩下がった。

怒った女の子は怖い。


「ディオ様は、協力してくださいますわよね?」

「協、力……?」

「勿論、『ヘルマちゃんにわたくしを認めさせ事』への協力ですわ!」


諦めるという言葉は、プリンヴェールの中に存在しないのだろう。

握り拳を作り、気合いは十分のようだ。

そんな彼女に好かれているヘルマも大変だ。


「えと、プリンヴェール……さん?」

「何かしら」

「俺、どんな事をしたらいいんですか?」


逃げるのは無理に決まっている。

なら、被害を最小限に抑える為、素直に従うしかない。


「良い心掛けですわね」

「それはどうも……」


あまり嬉しくない言葉。

ディオは荷物を足下に置いた。


「それで?」

「……はい?」

「俺は何をすればいいんだ?」

「……さあ?」

「……」

「……」

「……」

「……」


続く沈黙は、居心地が悪い。

仕方なくディオは口を開いた。


「プリンヴェール、何も考えてなかったのか?」

「あら、失礼ですわね。わたくし、五十以上考えて、全て失敗済みですわ!」


そんな所で胸を張らないでもらいたい。

こぼれそうになった溜め息を必死でこらえた。


「ディオ様」

「な、何?」

「何ですの。その反応は」

「……何でもないです」

「わたくし、とても良い案を思いつきましたの」


彼女の笑みがものすごく怖い。

とてつもなく、嫌な予感がした。


「ディオ様、スパイになってくださいな」

「へ……スパイ?」

「ええ。ヘルマちゃんの――」

「プ〜リ〜ン〜?」


低い声の方に目をやる。

素晴らしく冷たい笑みを浮かべたヘルマがそこに立っていた。


「ヘルマちゃ――」


驚きを含んで呼んだ名前。

ヘルマは浮かべた笑みを消さず、プリンヴェールに近づいた。


「あなた、何を考えているのかしら」

「わ、わたくしは!!」

「ディオ」

「は、はい!」


二人の雰囲気から、思わず姿勢を正してしまった。


「早く戻りなさい。急がないと、ジェフティが怒り出すわよ」

「分かった。ヘルマは……?」

「可愛い可愛いプリンヴェールとちょっとお話」


それ以上触れずにディオは、その場を去った。

プリンヴェールの悲鳴が聞こえたのは、幻聴だろう。

幻聴のはずだ。

自分に言い聞かせ、ディオは急いで幽霊船へ帰った。



それから暫くの間、プリンヴェールはディオ達の前に現れなかった。

しかし、諦める事を知らない彼女が姿を見せるのは、そう遠くないだろう。



up 2007/07/21
移動 2016/01/25




 

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