夜空の散歩


午後8時、ディオは聖女・ミリアムの屋敷を訪れていた。

コンコンと扉を叩けば、穏やかな声が聞こえた。


「あら、ディオ。こんばんは」


若干顔色は悪いようだが、にっこり微笑んでディオを迎えた。


「嬉しそうだな」

「え? そうですか?」

「あいつが来ていたのか?」

「はい。ほんの少しだけですけど」


最近仲良くなった人物と話をするのが、楽しいようだ。

嬉しそうな笑顔でいる事が多くなった気がする。

その「仲良くなった人物」が男だから、ディオだってヤキモチをやいたりする。

でも……ミリアムが元気なら、それを気にしてはない。

彼女の「楽しい時間」を奪う権利など誰にもないのだから。


「疲れてるだろうから、今日は帰るな」


顔も見れたし、と背を向けたディオ。


「待ってください!」


慌ててミリアムはディオの腕を掴んだ。


「ディオに会えるのを楽しみに待っていたんです。もう少し一緒にいてくれませんか?」

「……もう少しだけだからな」

「はい」


彼女は手を離すと、ふんわり笑った。

彼女の為にも、あまり無理はさせられない。


「今日も散歩しますか?」

「今日は……」

「連れて行ってくれますよね?」

「五分だけだからな」


最近、ミリアムが強くなったように感じる。

しかし、本当はディオが甘くなっているだけだ。



上着を羽織ったミリアムと庭から空を見上げる。

星を見ながら話をする事が、ディオの大切な時間になっていた。


「ねぇ、ディオ」

「ん?」

「流れ星に何をお願いしますか?」


唐突な質問。

ディオは暫く考えた。

考えて答えた。


「ミリアムが幸せに過ごせますように、かな」

「ご自分の事は願わないんですか?」


祈るように組んだ手を解かず、ディオを見上げた。


「それが俺の願いだからさ」

「……私の願い事も聞いてもらえますか?」

「ミリアムは何を願ったんだ?」

「みんなが平和で幸せに暮らせますように」


聖女らしい……ミリアムらしいその言葉にディオは笑みを浮かべた。


「ですが」

「うん」

「一番はディオの幸せを願ってますからね」


ディオは少し驚いた。

が、嬉しかったので「ありがとう」と素直に告げる。

ミリアムはまたふんわりと笑った。


「そろそろ戻ろう。体に障る」

「はい」


いつもは「もう少しだけ」とねだる彼女も今日は素直に頷いた。


「……じゃ、おやすみ」


玄関先でそう告げる。


「おやすみなさい。ディオが素敵な夢を見られますように」

「ありがと。またな」

「はい。また」


扉を閉める。

後何回「また」という言葉を交わせるだろう。

そんな事を考えた自分の頬を叩く。


「ミリアムは絶対大丈夫だ!」


先程二人で眺めていた夜空に誓うように、強く言葉にした。

ずっとずっと彼女の側で、彼女が愛した者達を守っていきたい。

音にせずに呟いた言葉。

何だか恥ずかしくて、笑った。

まるでディオの言葉を届けるかのように、夜空を星が流れた。



up 2007/07/07
移動 2016/01/25


 

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