倒れた砂時計


「ようやく見つけたわよ。ガウェイン・グランドハート!」


ビシッとガウェインを指差した女性。

彼女の姿を確認したガウェインは、驚きの表情を浮かべた。


「えっ? アンジェ……?」


まさかこんな所に現れるなんて思わない。

懐かしい彼女の姿に固まってしまった。


「こんな場所にいるなんて思わなかったから、随分探したわよ!」


疲れたという仕草をする。

そして、ゆっくりと距離を縮めた。

アンジェに何を言われるのか、とガウェインは身構える。


「あれ? アンジェ?」

「サラ! 久しぶり!」


久しぶりの再会。

アンジェは笑顔でサラに駆け寄った。


「髪、切ったのね」

「あ、うん」

「綺麗な髪だったのに……。でも、今の髪型も素敵よ」

「ありがとう、アンジェ」


楽しそうに話をする女の子二人。

ガウェインは、その様子を眺めるだけで、話には入れない。


「一体、どうしてココに?」

「復讐する為よ」

「復讐!?」


ガウェインを指して言ったアンジェの言葉にサラは驚いた。


「ちょっと、ガウェイン。どういう事なの!?」

「あの、それはですね、姫」

「この男、あたしを騙したのよ」


サラはアンジェとガウェインを見比べる。


「何かあったのか?」


いつの間にか、いつものメンバーが集まっていた。

これだけ騒げば当然なのかもしれない。


「アンジェじゃねーか」

「アーサー! 元気そうで良かった」


にこにこと懐かしそうに笑う彼女。


「サラ達の知り合いなのか?」

「仲間……だよ。アンジェっていうの」

「その仲間が一体何を?」

「えと……」


答えに困ったサラはアンジェを見た。

その視線に気づき、再び同じ言葉を口にする。


「ガウェインに復讐する為よ」

「えー!?」

「だから、誤解です!」


全員の疑惑の目を受け、ガウェインは大袈裟に手を振った。


「アンジェ、何があったんだ」


話が進まない。

アーサーはそう言って、アンジェを促した。


「あれは、忘れもしない×年前……」

「おい、サラ。この話長くなるのか?」

「どうだろ?」

「そこのお子様、ウルサい」


びしっと指を差され、ライカとサラは口を噤んだ。

ライカが“お子様”と表現される年齢かは、触れないでおく。


「あたしがガウェインに恋をしていた時の話よ」

「えー、アンジェってガウェインの事好きだったの!?」

「当時はね」


どこか悔しそうにアンジェは言った。


「まさか、アンジェさんはガウェインさんに二股――」

「そんな事はありません」


テレーゼの言葉を素早く否定する。

そうしないと、とんでもない事になるから。


「話、続けていいかしら?」

「どうぞ」

「人を疑う事を知らなかったあたしは、ガウェインの言葉に騙されたのよ……」

「……」


突っ込みたかったが、取り敢えず彼女の話を聞く。

そうしないと、全く進まない。


「ある日の事よ。彼はあたしに、こう言ったの」


アンジェはその時を思い出すように瞳を閉じた。


「“アンジェ、知っていますか? 三回転しながら空を飛ぶ黒猫を捕まえると、願いが叶うんですよ”って」

「……」

「信じたのか?」

「当たり前でしょ」


そんなワケの分からない話を何故信じたのだろう。

誰もがそう思ったはずだ。

その話をしたであろうガウェインでさえも。


「その猫を探して、今になったの?」

「そっ。正確に言えば、猫を探したのは約一年。後は、ガウェインを探したってワケ」


一年もそんな謎の猫を探していたのかと思うと、彼女が不憫に見える。

ここ数年ガウェインの言葉に振り回された彼女は、ある意味一途なのだろう。


「それで、どんな復讐をするんだ?」


アーサーに問われ、アンジェはにやっと笑った。


「目には目を(以下略)作戦」

「……?」

「ガウェイン」

「何ですか」


身構えながら、彼女の言葉に耳を貸す。


「一年以内に、水中スケートをする赤毛のイタチを見つけないと」

「……」


そんな話をガウェインが信じるわけない。

誰もが思った時、アンジェは最強の言葉を放った。


「サラに最大級の不幸が襲いかかるよ」

「姫! 私は今すぐ『水中スケートをする赤毛のイタチ』を探しに行きます!」

「ちょっ、ガウェイン」


サラが止める暇もなく、彼は船を降りてしまった。


「……」

「何?」


全員の視線を受けたアンジェは、問いかける。


「あ。ガウェインの分は、ちゃんと戦うから」

「サラさん、アンジェさんは……」

「え〜と……」

「あいつは強いぞ」


サラは、アンジェが戦っている所を見た事がない。

その為、アーサーの答えに驚いた。


「ホント?」

「ああ。だから、アイツが……」


言いかけて、やめた。


「?」

「何でもねぇよ」


自分が言う事ではない。

そんな雰囲気を纏い、アーサーはその場を離れた。


「それにしても、やっぱガウェインの一番ってサラなんだ」

「アンジェ?」

「何でもない。あたしの一番もサラだからね!」


そう言って、サラを抱きしめた。



アンジェは知らない。


ガウェインがアンジェを傷つけたくないから、彼女を自分から離したという事を……。



up 2007/07/20
移動 2016/01/25


 

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