甘さ控えめ


「ライカ!」


機嫌のいいアンジェの声が扉越しに聞こえる。

一方、ライカは憂鬱で、溜め息を吐いた。


「ライカ、早く行こうよ。ね?」


アンジェの方が年下なのに、子供に話しかけるような口調で誘ってくる。


「アンジェ、悪いが……」

「今日は絶対に付き合うって約束したよね?」

「それが……」

「今日を三十六回目のキャンセルにするんだ」


拗ねたような、怒ったような、そんな声。

泣き出されたら、どうしたら良いのか分からなくなる。

ライカは諦めて、部屋を出た。


「よし。行こう!」


嬉しそうなアンジェを無視するわけにはいかず、ライカは重い足取りで彼女に続いた。



街に降りる。

休日という事もあり、人が多い。


「迷子にならないでね」

「はいはい」


彼女はどうして成人済みの男性を子供扱いをするのだろう。

と疑問に思う。

尋ねたところで答えてくれないだろうから、ライカは何も言わなかった。

ただ嬉しそうに歩く彼女の横顔を見ていた。


「着いたよ」


アンジェの声に顔を上げる。


「ここ……」

「この前見つけたの」


アンジェに連れられて来た場所は、甘い匂いの漂う店……ではなく、日本料理の店だった。


「……」

「何固まってるの?」

「いや……今日はお菓子を食べに行くと言わなかったか?」

「うん。和菓子を食べに、ね。それに、ライカと来るなら、こういう店もいいかなって」


アンジェは照れたように笑った。

そんな彼女の気遣いが嬉しい。


「アンジェ」

「ん?」

「ありがとな」

「……。うん!」


雰囲気のいい店内で、二人はその時間を楽しんだ。


「ねえ、ライカ」

「何だ」


幽霊船への帰り道。

ふと思い出したかのようにアンジェは名前を呼んだ。


「ちょっと寄り道していい?」

「何かあるのか?」

「まあね。ライカはここで待ってて」


言い終わらないうちにアンジェは走り出した。

追いかけても良かったのだが、ライカはその場で待つ事にした。

道端のベンチに座り、ぼんやりと人が通り過ぎるのを見ていた。


「お、待たせ……!」

「そんなに急がなくてよかったんだぞ」


苦しそうに呼吸を繰り返すアンジェを見て言う。

まだ整わぬ呼吸の彼女は笑顔だけ見せた。

そして小さな紙袋を差し出した。


「……?」


白地に赤や青の水玉が描かれた紙袋。

片手に乗るくらいの大きさ。

それが何なのか考えてしまったライカは、その袋を凝視していた。


「……そんなに怪しいモノじゃないから、受け取ってよ」

「あ、ああ」


手にした袋を覗く。

中に入っていたのは、口の広いガラス瓶。

色鮮やかなコンペイトウが入った瓶だった。


「これ……」

「今日付き合ってくれたお礼。嫌がらせじゃないからね」

「あ、ありがとな……」

「珍しく素直だね、ライカ」


何かをプレゼントしても、いつもは「ああ」くらいしか言わない。

アンジェが贈る物がほとんど甘いモノだからだが。

そのライカが「ありがとう」と言った事に、アンジェは驚いたのだろう。


「アンジェ、さっさと帰るぞ」

「はいはい」


嬉しそうに顔を見上げてくるアンジェの瞳。

何だか照れくさくて、足早に歩き始めた。

アンジェの足音と笑い声が背中に聞こえる。


「ね、次は、いつ出かける?」

「そうだな……」


並んだ二人はゆっくり歩く。

ライカは少し考えて、アンジェの方を向いた。


「これがなくなったらな」

「ライカ、絶対食べないでしょ」

「アンジェも同じのを買ったんだろ?」

「え……うん」


アンジェの手にもライカのものと同じ袋がある。


「どちらかがなくなったら、また来よう」

「……うん!」


嬉しそうに笑うアンジェ。


「よし! 今日中に食べようっと」

「おい」

「冗談冗談」

「甘いモノが好きなのは良いが、食べすぎるなよ」

「分かってるって」



次に出かけるのは、いつになるのか。


それは、ガラス瓶の星のみが知っている……。



up 2007/05/30
移動 2016/01/25


 

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