最強ライバル
良いじゃない。
だって好きなんだから。
***
「何の用だ」
カイトの部屋の扉をノックしたアンジェに返ってきた不機嫌な声。
「……」
慣れてきてはいるが、彼の声に溜め息を吐いた。
「……スイヒ、カイトいる?」
「そんなヤツはおらん」
扉を開けば、腕組みをしたスイヒに迎えられた。
「カイト、どこに行ったの?」
「そんなヤツはおらんと言っておるだろう」
「スイヒって、あたしの事嫌いだよね」
「当然だ。誰がお主なんぞに好意を抱くものか」
「酷っ」
この船の誰もが知っている事だろう。
スイヒがものすごく嫉妬深い事を。
犬や猫にさえケンカを売るのだ。
相手がアンジェとなると……。
「聞いておるのか!」
「……何が?」
「さっさと出て行け」
「じゃあ、カイトがどこにいるのか教えてよ」
「知らん」
飽きもせず続ける二人。
最近では、これを楽しんでいるようにも見える。
「カイトの行き先教えてくれたら、今度ご馳走してあげる」
「うっ……」
「美味しいお酒もつけてあげる」
「うむ……」
スイヒの好きなモノくらいアンジェは知っている。
食べ物でつるなんてマネはしたくないが、今はカイトに会いたいのだから仕方ない。
「ね、教えてよ」
真剣に悩み始めたスイヒに声をかける。
「やはり、断る」
「えー、何で?」
「カイトに悪い虫がつかないようにする事が、我の使命なのでな」
意味分からないと呟いて、アンジェは肩を落とした。
こうなったら、自力で彼を探すしかない。
カイトがいそうな場所……。
色々考えてみたが、ピンとくる場所がない。
というのも、彼はいろんな場所を行き来しているから。
「甲板にでも行こ……」
まだ何か言ってくるスイヒを無視して、アンジェは甲板を目指した。
「今日も風気持ちいいな……」
「アンジェ!?」
「えっ?」
届きそうで決して届かない空を見上げていると、驚いたように名前を呼ばれた。
「カイト」
意外とあっさり出会えて、拍子抜け。
「何でこんなトコにいるんだよ!」
何故だか分からないが、怒っているように見える。
「こんなトコって……。カイトを探してたんだけど」
「俺を?」
「うん。何で怒ってるの?」
「……」
カイトは黙り込んでしまった。
そのまま何も言わず時間だけが過ぎていく。
「カイト」
「何……?」
「寒くない?」
「……」
「お茶でも飲みに行こうか?」
そう声をかけると、カイトは頷いた。
そして、いつもの雰囲気に戻る。
「一体、何を怒ってたの?」
「内緒」
「教えてくれてもいいじゃない」
「絶対に嫌だ」
階段をおりながら話す二人には、笑みがこぼれていた。
up 2007/04/25
移動 2016/01/24
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