灰色アンダンテ


※未プレイ時作品(情報源CMのみ)



町を歩いていたフレンは、見知った少女の姿に、速度を上げた。


「っ……」


名前を呼ぼうとして、声は空気に溶けた。

彼女の視線の先には、同年代の少女達。

彼女達は、アンジェに気づいていないようだった。

フレンの位置からは、話は聞こえない。

けれど、アンジェが纏う空気から、あまり良い物でない事が分かった。


「アンジェ」


少し速度を落とし、アンジェに近づいた。

彼女も気づいていなかったようだ。

フレンの声に驚き、振り返ったアンジェの目には、涙が浮かんでいた。


「アンジェ……」

「っ……」


その顔を見られたくなかったのだろう。

慌てて走り出す。


「待って、アンジェ」

「離してよっ」


肩を掴むと、睨まれた。

今にも涙が溢れそうな瞳で。

その瞳に一瞬体が強張り、手の力が抜けた。

走って行くアンジェの背中を見送る事しか出来なかった。

フレンは彼女がいた位置に立つ。

少女達の声が聞こえてきた。

その内容は、恐らくアンジェの事。


「一生懸命なのは、分かるんだけどね」

「うん、真面目だよ。けど、失敗しない日ないよねー」

「小さなミスだけじゃないし」

「この前のアレ、酷かったよね」

「うちも厳しいらしいし」

「やっぱり……」


彼女が聞きたくなかったであろう言葉が、いくつも空気に流されていた。

フレンはその言葉に背を向け、アンジェが向かったはずの場所へ急いだ。


***



開いた扉を軽く叩く。


「入るよ」

「……もう入ってるくせに」


陽射しを遮るカーテンで、薄暗くなっている室内。

ベッドの上に座っているアンジェは、クッションに顔を埋めていた。


「アンジェ」

「出てってよ」


籠った声は、消えそうに弱々しかった。

その言葉を拒絶し、アンジェに近づく。


「フレン」

「……」

「来ないでよ!!」


アンジェは顔を隠していたクッションを投げつけた。

フレンはそれを軽く受け止め、アンジェの側に座る。


「……何で入ってくるのよ」

「君の側にいたかったから……かな」

「フレンに何が分かるのよ! 私なんかと違って、何でも出来るフレンに!!」

「僕は、君が思う程、何でも出来るわけじゃないよ」

「でも、私はっ……!」


勢いよく上がった顔。

視線が行き場を失い、力なく落ちる。


「分かってた……」

「うん」


暫くして、ぽつりぽつりと話し始めた。

息を吐くように小さく。


「私、何してもダメなの。失敗しないように、頑張ってるつもりなのに……」

「うん」

「みんなに迷惑かけたいわけじゃないの」

「うん」

「少しでも、誰かの力になりたいって思ってるのに……」

「うん」


アンジェが紡ぎ出す言葉を、ゆっくり頷きながら聴いていた。


「私、ホントにダメだな……」

「アンジェ、“ダメ”って決める事がダメだよ」

「?」

「ゆっくりでいいだろ? 前より失敗が減ってるんだし」

「!!」


驚いた瞳がフレンを見上げた。

大きく開いた瞳がゆっくり閉じて、そして笑った。


「フレンって、やっぱりすごい」

「ん?」

「言われるまで気づかなかった。そっか、私、失敗減ってるんだ」


最初の頃を思い出したのだろうか。

少し恥ずかしそうに頬を染め、また嬉しそうに笑った。


「ありがとう、フレン」

「どういたしまして」

「フレンってお兄ちゃんみたいなのかもね」

「……」
 
「私が苦しい時に、さりげなくいつも助けてくれるから」


アンジェの笑顔が少し痛い。

フレンは苦笑を浮かべた。


「お兄ちゃんとしては、可愛い妹がもっと会いに来てくれると嬉しいけどね」

「……失敗が減ったら、会いに行く」

「……」


それじゃあ、また暫く会えないな、とか思ったのはアンジェには内緒だ。


「じゃ、僕はそろそろ帰るよ」

「ありがとう、フレン」

「またね、アンジェ」


静かに扉を閉めて、フレンは部屋を出た。

彼女の涙を癒す事は出来ただろうか。

そんな事を考えながら、歩き出した。



ゆっくりゆっくり歩いて行こう。



曖昧なこの道を。



up 2008/09/02
移動 2016/01/16


 

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