15歳年下のプロポーズ


「何だ、コイツ」


目の前の子供を見て、ユーリは尋ねた。


「アンジェちゃん。今六歳なんだって」

「そうじゃなくて……」

「じゃ、何?」

「何で、その……アンジェだっけ? が、ここにいるんだよ」


フレンと手を繋いでいる少女・アンジェは、好奇心が詰まった瞳で辺りを見ていた。

頭を動かす度に、髪飾りのついた髪が跳ねる。


「この子のお母さんに頼まれてね。一週間預かってほしいんだって」


はい。

とフレンはアンジェの手をユーリの前に出した。


「……お前が預かったんだろ」

「彼女は、ユーリに預かってほしいって言ってたよ。僕は今忙しいから無理だし」

「……」


フレンの手を離れた小さな手。
 
その手は躊躇する事なく、ユーリの手を握った。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「……」


にこりと見上げてくる少女。

子供らしい甘えた笑顔と、無条件に信頼を寄せる瞳。

追い返す事は、罪悪感が阻んだ。

仕方ないと、諦めのため息を一つ。


「分かったよ。けど、何があっても知らねぇぞ」

「そんな事言わないで。じゃ、頼んだよ」


時間を気にして、フレンは出て行く。


「フレンお兄ちゃん、またね」

「うん。困った事があったら、何でも言ってね」


そのやりとりを見ていると、フレンが預かった方がいいんじゃないかと思う。

扉が閉まると、静かになる。

それは、いつもと違う静寂。


「ねえ、ユーリ」



(フレンは“お兄ちゃん”で、オレは呼び捨てかよ)



「何だ?」

「手」

「手?」


アンジェは両手をユーリの前に差し出した。

ユーリは自分の手を見た後で、彼女の前に出した。


「短い間だけど、よろしくね」


ユーリの手を握り、アンジェは上下に振った。


「……ああ、よろしく」

「元気ないね」

「そんな事ねぇよ。で、お前の」

「アンジェ」

「……アンジェの母親は、何の用事なんだ?」

「えと、守秘義務……だったっけ?」

「はいはい」


話したくない、のか。

本当に他人には言えない事、なのか。

判断出来なかったが、仕方ない。


「アンジェ」

「ん? チョコレート?」

「それでも食べろ」

「……」


暫くそれを眺めた後で、アンジェは口に放り込んだ。

何をするという事はなく、ただ時間が過ぎていく。


「ユーリ」

「何だ」


その時間を壊すように、アンジェが声をかけた。

顔を向ければ、床に届かない足が揺れている。


「わたし、ユーリのお嫁さんになってあげてもいいよ」

「……そりゃ、どーも」

「あー、ウソだって思ってるでしょ!」

「いや、ウソというか何というか……」


アンジェは拗ねたようにそっぽ向く。

腕を組み、頬を膨らませていた。


「子供だと思って、バカにしてるでしょ」

「そんな事はねぇって」

「子供はいつだって本気なんだからっ」

「……」


一体何の影響なんだろう。

六歳の子供が口にする言葉にしては、先程から少し違和感があるような。


「わたしね、ユーリに助けてもらった事があるの」

「オレが助けた?」


残念ながら、記憶にない。

ユーリの反応を気にする事なく、アンジェは言葉を繋げた。


「昔の話だけどね」

「昔って……」

「迷子になってたわたしをね、助けてくれたの」

「そうだったのか」

「で、ユーリしかいないって思ったわけよ」


何というか、言葉が見つからない。

六歳の子供に対し、ユーリは曖昧に笑った。

アンジェは立ち上がり、対称的ににこっと笑った。


「じゃ、またね」

「どこへ行くんだよ」

「家に帰るの」

「家……?」


何か忘れ物をしたのだろうか。

それとも……。

色々考えるユーリに向かって、アンジェは悪びれたように言った。


「あれ、嘘なの」

「嘘?」

「ユーリがわたしを一週間預かるっていうのは嘘」

「何でそんな嘘……」

「会いたかったから、フレンお兄ちゃんに協力してもらったの!」


アンジェは勢いよく扉を開けた。


「またね、ユーリ“お兄ちゃん”」

「アンジェ」


走って行く足音だけが聞こえた。

追いかけてはみたものの、アンジェの姿は見つからない。

まるで、白昼夢のような出来事だった。



up 2008/10/30
移動 2016/01/24


*本当は大人な夢主が何らかの影響で小さくなった設定でも良かったかなって当時の後書きに書いてました。


 

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