風
※死ネタ注意!!
※苦手な方は読まないでください
(書いた当時、初めて夢主を死なせた作品でした)
***
「風になりたい」
あのコはそう言っていた。
***
「天気いいな」
屋上で見慣れた人物を見つけた俺は、そう声をかけた。
「あれ? 香介?」
眠そうに瞼をこするこいつ。
俺と同じブレードチルドレンだ。
「杏樹、寝てたのか?」
「気持ちよかったから」
大きな欠伸をした後で、涙を拭う。
「ったく……まぁ、杏樹らしいんだけどよ」
俺は杏樹の隣に座った。
そして、広がる大空を見た。
「あたし……風になりたいな」
暫く黙っていた杏樹がふとそんな言葉をこぼした。
「え?」
「聞いてなかったの?」
聞き取れないくらいの声で言ったくせに……。
「風になりたいなって」
「風?」
変わった事を言うなぁ、という位の気持ちで尋ねた。
「風って、自由の象徴って気がしない?」
杏樹は足りない肋骨部分を押さえ、笑っていた。
「そうだな」
俺はそれ以上、何も言えなかった。
風、か……。
「風になりたいな」
もう一度そう言うと、杏樹は自分の足を引き寄せ、顔を埋めた。
「杏樹……」
何て言えばいいのか分からない。
ただ、「運命」に繋がれた俺達。
その鎖を断ち切る事は……難しい。
「香介っ」
暫く考え込んでいたせいか、杏樹が立ち上がった事に気がつかなかった。
両手を横に広げて、笑っていた。
青い空を背にして。
「あたしが風になれたら、香介を癒してあげるね」
「……おぅ」
眩しい程に笑うから、俺も笑って頷いた。
***
「香介……」
俺の隣に立つ亮子が遠慮がちに声をかけてきた。
「俺は、大丈夫だって」
うまく笑えず、掠れていた。
いや……笑う必要なんかねぇな。
俺の前にいるのは、冷たくなった杏樹。
屋上で杏樹が「風になりたい」と話していた日から一週間もたっていなかった。
「……ハンターだね」
「コイツに抵抗の跡は見られない」
「それって……」
俺に聞こえないように気を遣ってか、理緒もラザフォードも亮子も小声だった。
だけど、そんな事はもうどうでもよかった。
杏樹と二度と話ができない。
その事実だけで十分だ。
何故「死んだ」とか、誰に「殺された」とか、どうでもよかった。
***
無事に杏樹の葬儀が終わり、“いつも”と変わらない、だけど、“いつも”と確実に違う数日が過ぎた。
一人になった俺は空を見上げた。
『風になりたいな』
なぁ、杏樹。
お前は、風になれたのか?
自由な風になれたのか?
知らず知らずのうちに流れていた俺の涙を風がさらっていった。
『あたしが風になれたら、香介を癒してあげるね』
up 2005/09/09
移動 2016/01/21
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