届かない
初めて好きになった女の子は、
ちょっと変わった女の子だった。
くるくる変わる表情。
すごく、可愛い。
でも、本当のカオは見ていない気がする。
俺じゃ君に
届かない
***
グラウンドに響く笛の音。
その音の方を見た後、俺は足を進めた。
放課後は暇だ。
ふと移した視線の先に彼女を見つけた。
結崎ひよの。
俺が好きなヒトの名前。
周りの評判はあまりいい方ではないが、俺にはそんな事は関係ない。
一度も会話をした事がない。
一度も同じクラスになった事がない。
一度も顔を合わせた事がない。
接点なんかない。
つい最近、彼女を見かけて、話をしているのを聞いて、好きになった。
そん時に、一緒にいたのが噂の1年だって事も少し前に知った。
「迅さん、帰るんですか?」
いきなり声をかけられた。
その結崎ひよのに。
「色瀬迅さん?」
驚いて声が出ない俺の目の前で手を振る彼女。
「な、んで、俺の名前知ってんだよ」
「誰に言ってるんですか。私、新聞部部長ですよ?」
胸を張る彼女。
その様子だと、全校生徒の顔と名前を暗記していそうだ。
それが、いい噂がない理由かもしれない。
「それで迅さん。今、帰りですか?」
「あ、ああ」
「ご一緒しても良いですか?」
……今、何て言った?
「鳴海さんに逃げられまして、駅まで一緒に如何です?」
聞き間違いじゃなかったみたいだ。
そういう訳で、どういう訳か、俺は彼女と一緒に帰る事になった。
「一緒のクラスになった事ないですよねー」
「そうだな」
「何か楽しいお話、ご存知じゃありません?」
「……あんたの方が詳しいだろ?」
何を話せばいいのか分からない。
普段、会話ってどうしてた?
「私とお話するのつまらないですかね?」
少し寂しそうに、もしくは苛立っていたのか?
そんな事さえも分からない。
「いや……」
「……私、全校生徒の顔と名前暗記したりしていませんよ?」
「え?」
「迅さんだから知っていたんです」
頭がうまく動かず、彼女の言葉が理解できなかった。
「今日は用事がありますので」
そう言うと、来た道を走っていってしまった。
彼女が去った後も俺はその場に立ち続けていた。
彼女が言った言葉にまだ頭を支配されていた。
「……俺、だから?」
その言葉にどんな意味があるのか……。
ふと見上げた空は、すっかり暗くなっていた。
もしかしたら、
俺は、
彼女に、
届く、
かもしれない。
up 2005/02/07
移動 2016/01/20
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