夜間低空飛行


※未プレイ時作品



座った地面は、太陽の熱を無くしていて、ひんやりと冷たかった。

地面から空へと視線を移す。

紺色の空に散らばる小さな光。

数多の星を眺めながら、一つずつ数えていく。

数える時に、今日の出来事を思い返しながら。


「アンジェ」

「わっ。ユーリ、驚かさないでよ」

「お前、オレに気づいてただろ」

「……」


バレていたんだ。

とアンジェは肩を竦めた。

長い髪を夜風に流し、ユーリはアンジェの隣に座った。


「何か用事?」


綺麗な横顔に尋ねれば、眉間に皺が出来た。


「お前の弟に頼まれたんだよ」

「?」

「お姉ちゃんがいなくなったから、探してくれ。って泣きながら」


思い切り、泣き付かれたのだろう。

その顔に疲労の色が見えた。


「あはは。ごめんね〜」


年の離れた小さな弟。

いつもは彼が寝てから、家を出ている。

ふと目が覚めて、アンジェがいない事に気づき、不安になったのだろう。

頼るべき人物を間違っていない、とアンジェは満足そうに笑った。


「何笑ってんだよ」

「んー? ユーリが迎えに来てくれて、嬉しいなって」

「オレは、来たくて来たんじゃねーよ」

「分かってるって」


隣にいるユーリの肩を叩いた。

『友達』ではない。

けれど、こういうのは『友達』ぽくていいな、と思ったり。


「夜中に出かけるなら、保護者連れて行け。未成年が一人で出歩くな」

「……じゃ、ユーリが付き合ってくれるんだ」

「……」


一瞬、嫌な顔をした。

だから、アンジェは笑う。


「冗談だって。はいはい、気をつけます」


立ち上がり、背を向ける。

今日はもう帰って寝ようと、歩き出した。


「アンジェ」

「何?」


二歩進んで、立ち止まる。

振り返らない。


「送る」

「一人で平気なのに」

「送る」

「ありがと」


その気配が来るまで、アンジェは瞳を閉じた。


「何してんだ」

「おまじない」

「?」

「ねえ、手を繋いでいい?」

「お前はガキか」

「まだ子供だもん」


何を言っても無駄だと悟ったのか、ユーリは諦めて頷いた。

ただ手を繋ぐだけなのに、ドキドキする。

自分で言っておきながら、なかなか行動に移せない。


「繋ぐんだろ」


気遣ってくれたのか、どうか。

ユーリはアンジェの手を軽く握った。

そこに意識を集中すると、何だか照れるから。

アンジェは空を見上げた。

空は昨日と変わらずに、キラキラと輝く星を包んでいる。

やっぱり明日も同じ空を見たくて、出かける事は決定済み。

弟にもユーリにも気づかれないように、そっと抜け出そう。

星空を眺めながら、そんな計画を立てていた。


「アンジェ」

「ん?」


ユーリの声に、空から視線を外す。

背の高い彼を見上げる。

目が合うと、言葉を繋いだ。


「気が向いたら、付き合ってやる」

「? あ、そっか。珍しい」

「……悪かったな」

「ううん。ありがとう。毎日誘いに行くね」

「……」


ほんの少し嫌そうな顔をしたのは、気のせいに違いない。
 
きっと、文句を言いながらでも付き合ってくれるから。

同じ体温になっていくその手が、すごく大切な物に思えた。



up 2008/09/09
移動 2016/01/16


 

top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -