あの日の再会
とても青い空が広がっていた。
いつもより遠く感じるその空を、俺はケセドニアから見上げていた。
「ディオではありませんか?」
品のある声に、俺は顔を上げた。
「ナ、ナタリア……様!?」
「あら、“様”はいらないって言いませんでした?」
俺の側に立っていたのは、キムラスカ・ランバルディア王国のお姫様。
ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディア様だった。
「それは、もう何年も昔の話です」
「私の大切な思い出を昔話するおつもりなのね」
腰に手を当て、不機嫌を表す彼女は、あの時と変わっていなかった。
***
「ナタリア様が?」
その当時、俺はバチカルに住んでいた。
母親が城で働いていたから。
「そうよ。今日のお祭りにあなたと一緒に行きたいとおっしゃったの」
俺はナタリア様と顔を合わせた事がなかった。
何故、名前を呼ばれたのか……と考えていると、母親に微笑まれた。
「ルーク様もガイも用事があるそうなの」
確かに、いつもはその二人と出かけるはずだ。
「今日はどうしても出かけたい、とおっしゃってね。私の息子でよろしければ……ってね」
「……」
取り敢えず、かなり緊張した事だけは、今でもリアルに思い出す。
「ディオですか?」
城の前に立っていると、可愛らしい少女の声が飛んできた。
それが、ナタリア様だった。
ただ、彼女の後ろにいる護衛の騎士が、重苦しい空気を出していた。
「初めまして。ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアですわ」
ドレスの裾を持ち、丁寧にお辞儀をするナタリア様に見とれてしまった。
「あ……。は、初めまして、ナタリア様。ディオです」
お姫様への挨拶の仕方など分からない。
失礼のないように、ただそれだけを子供ながらに考えていた。
「ナタリアで結構ですわ」
後ろの騎士に聞こえないように、こっそり告げた少女。
「えと、ナタリアさ――……」
綺麗というより可愛い顔に睨まれ、言葉が途切れた。
「行きましょう。ディオ」
俺の手を掴み、走り出すナタリア様。
「ナタリア様っ!」
慌てた騎士達の声を背に受ける。
「すぐに戻りますわ」
その声は彼らに届いたのだろうか。
ナタリア様に連れられて来たのは、祭りで賑わう広場ではなかった。
工場行きの天空客車の側。
「ナタリア様?」
「綺麗な空だと思いませんか?」
星が降る夜空。
祭りを楽しむ人々の賑やかな声。
これから先、決して隣に立つ事などないだろう気高いお姫様。
全てが夢のようだった。
「ディオ、楽しくありませんわよね……」
寂しそうな声に、俺はナタリア様に目を移す。
柔らかな髪が風に舞い、彼女の表情を隠していた。
「いえ。僕……あっ、私は」
「敬語は禁止です」
「……嬉しいんだ」
頬を膨らませたナタリア様……ナタリアから目を逸らす。
「ナタリアと一緒に綺麗な空を見れて」
女の子と二人で空を見るなんて、初めてだった。
「約束しようっか」
俺はナタリアにそう切り出す。
「約束?」
「そう。次に会う時――……」
***
「次に会う時には、もっと素敵な人になっていよう。笑顔でまた会えるように」
「え?」
ナタリア様の言葉に驚いた。
まさか覚えていてくれるなんて思わなかったから。
「あら。私は忘れたりなんかしませんわ」
「ありがとう、ナタリア」
ナタリアも俺も笑った。
夢のような思い出が、確かに現実となって俺の側にあった。
次に会う時には、お互いもっと素敵な大人に……。
up 2006/10/07
移動 2016/01/12
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