夕陽を映す朱


夕陽を見ると、寂しくなる。


あの人を思い出すから……。


“一人”だと錯覚してしまうから……。


それでも、私は夕陽が好きなんだ。



***



「……」


私は今病院の屋上にいる。

とある病気の為、入院中の私。

涼しい夕方の風は悪いかな……と思いつつ、ここにいる。

それは、この夕陽の色が、切なくも恋しいから。

病室で見るより、ここで見る方が綺麗に見えるから。


「アンジェ!」


私の時を止めるかのような声。

……待ち望んでいた声。


「ルーク」


会う時はいつも穏やかな彼が怒っているように見えた。

私の手を乱暴に握って病室へと連れ戻された。

私がベッドに腰を下ろすと、ルークは漸く微かな笑みを浮かべた。


「せっかく会いに来たのに、いないから心配した」

「……ごめん」

「何で屋上なんかに?」

「会いに行ってたの」


“誰に?”

ルークの顔がそう尋ねたから、答えた。


「ルークに」

「……?」

「好きなの。あの夕陽が。ルークと同じ色なんだもの」


暫く考え込んでたルークの顔が、少し赤くなったように見えた。

私が言いたい事、分かってくれたのかな?


「ありがとう、来てくれて」


スリッパを脱ぎ、ベッドに寝ると、布団を頭からかぶった。

嬉しさと悔しさが混ざったような感情に、泣きそうになる自分が嫌。

会いに来てくれて嬉しいのに、離れる事を考えると素直に喜べなくて……。


「アンジェ」

「ルーク、忙しいでしょ。もう帰っていいよ」


可愛くない言い方をする自分に自己嫌悪。

でも、これ以上の言葉は言えない。

きっとワガママを言ってしまうから。


「アンジェ……」


布団ごしに頭をなでられた。

ダメだ。

もう無理……。

涙が溢れた。


「アンジェの体調がもう少し良くなったらさ、一緒に行こうぜ」

「……どこに?」

「空」

「空?」


一緒に行こうって……。

手軽に行ける場所じゃない、よね?


「アルビオールに乗れば、空に近づける」

「アルビオール……」


ルークから何度か聞いた事のある単語。

私は涙を拭いて、布団から顔を出した。


「約束だよ」


差し出した小指をルークは絡めてくれた。

照れたように笑いながら。


「約束……な」


それから暫くして、ルークの友達からルークの事を聞いた。

世界を救う為に戦った事……。

今はまだ帰ってこられない事……。

そして、『約束』とだけ書かれた紙を受け取った。



それから二月。

私は、無事退院した。

まだ通院中だけどね。

ルークが帰ってくるまでには完治させるんだから。



ルーク……。

私待ってるよ。

あなたがまた私の名前を呼んでくれるのを。

空に連れていってくれるのを。

あなたと同じ夕陽を眺めながら。



up 2006/11/18
移動 2016/01/11


 

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