キミに幸せの花束を


※バレンタイン



甘い甘い香りが漂うその日。


いつもと違うちょっとした勇気。



「甘かった……」


アンジェは、目の前のチョコレートケーキを見て、呟いた。

甘かったのは、チョコレートではない。

ケーキ作りなんて簡単だ、と思っていた自分が甘かったのだ。

なかなか思い通りにいかず、予想以上に時間がかかってしまった。

一応味は満足できるものの、見た目には少々不安が残る。


「大丈夫だよね……?」


“大好き”の気持ちで作ったから、問題はないと思う。

それでも、やはり見た目は気になる。


「……」


だが、作り直す時間はない。

アンジェはそれを用意していた箱に入れ、リボンを結んだ。

これ以上崩さないように気をつけ、待ち合わせの場所へと急いだ。



***



「……」


予想していなかったわけではないが、実際に目にすると、腹が立つ。

待ち合わせ場所には、ゼロスが先に来ていた。

しかし、そこにいたのは彼だけではなかった。

いつものように、綺麗な女の人が一緒だった。

一人や二人ではない。


「……」


何故あそこまで楽しそうに笑えるのだろう、と寂しくなる。

ゼロスの立場上、付き合いが大切だと分かっていても、気持ちはそれを理解しようとしない。


「今日じゃなくてもいいや……」


アンジェは来たばかりの道を戻り始めた。

形の悪いケーキの入った袋を持つ手に力を込めて……。



***



『好き』。

今まで、心のどこかで拒絶していた感情。

それでも確かに、アンジェの事が好きだった。

側にいて欲しいと思えた。

いつまでも側にいたかった。


「……はぁ」


待ち合わせの時間から、もうすぐ二時間。

溜め息だって出る。

二時間程前、ちょうどアンジェと待ち合わせをしていた頃、いつものように彼女達に会った。

そして、いつものように話をした。

その時にアンジェが来ていたんじゃないか……と考える。

ゼロスにしてみれば、日常的なソレをアンジェは好んでいなかった。


「まぁ、当然だよな……」


ゼロスは“いつもの場所”へ行く事にした。

きっとアンジェはそこにいると思ったから。

そこにいて欲しいと願う気持ちが確かにあったから。

ゼロスは“いつもの場所”へ向かった。



***



「アンジェちゃん、見っけ。待ち合わせはここじゃないぜ」


ゼロスが声をかけると、アンジェは慌てて振り返った。

うっすらと涙を浮かべた瞳に胸が痛んだ。

……罪悪感。


「ゼロスのバカ」

「やっぱ見てたんだ」

「見せつけてたくせに」

「そんな事ねぇって」


怒りよりも悲しみを感じる彼女の言葉。

ゼロスはそんなアンジェの前に花束を差し出した。


「……?」


受け取ったアンジェに笑顔を浮かべて言った。


「俺さまの気持ち」

「え……」


花束に添えられたメッセージカード。

丁寧に並んだ文字が紡いだコトバ。



『Dear アンジェ。貴女が好きです』



キミに贈るよ。


俺の気持ちが伝わるなら何度でも。



キミに囁くよ。


俺の想いが伝わるなら何度でも。



up 2007/02/16
移動 2016/01/09



 

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