一夜限りの王子様


※クリスマス



冷たい空気は、より一層温もりを感じさせる。


迎えに来て。


私だけの“王子様”。



***



寒い寒い夕方。

夜にかけて更に冷え始める空気。

アンジェは、はやる心を抑えゼロスを待った。


「アンジェちゃん、はっけーんっ!!」


いつもと変わらない軽いノリで、ゼロスは現れた。


「遅いよ、ゼロス!」


ゼロスはアンジェの前で華麗にお辞儀をした。


「お待たせしました。お姫様」


その動作一つ一つが優雅で無駄がない。

一朝一夕で身につくようなモノでない。

それは、彼がそういう立場にいたからだろう。

差し出された手に自分の手を重ねる。

と同時に強い力で引っ張られ、気づけば抱きしめられていた。


「きゃっ……」

「つかまえたぜ、お姫様」


ゼロスの低い声が耳元で囁かれた。


「それ嫌い」

「何で!?」

「だって、すごくドキドキするから……」


何て可愛い事を言うんだろう、とゼロスは腕に力を込めた。

暫くその温もりを感じていたが、少し力を緩める。

ゼロスはアンジェの手袋を脱がした。


「ちょっと、ゼロス何してんの」


動揺を含んだ声で尋ねれば、指に何かをはめられた。


「プレゼント」


離れたゼロスはそう言って笑った。

アンジェは自分の手を見る。

指にぴったりとはまったリング。

赤い石のついたほんの少しだけ飾られた指輪。

アンジェは何度も瞬きをして、それを見た。


「指……輪?」


それなりに高価なものだと分かる。

だからこそ、現実味がないような気がした。

自分とは無縁に見えたから。


「どうよ。驚いた? その赤い石、俺さまの髪とおんなじ色だろ?」


指輪から目を離さないアンジェに声をかける。


「俺さまとずっと一緒だぜ……なーんてな」

「……」

「アンジェちゃん、そこはツッコむところだって……」


いつものように笑ってアンジェを見ると、泣いていた。


「え? え? 何で?」


自分は何かしてしまっただろうかと焦る。

何も変な事は言わなかったはずだが。


「アンジェちゃん、どうしたの」

「……いの」


涙が掠れさせるアンジェの声。


「え?」

「すっごく嬉しいの!」


ぽろぽろとこぼれる涙を指で掬う。


「こんなに冷たくなって……。よし、あったかい物飲みに行こうぜ」

「ゼロス!」


頬から離れた手が恋しい。

歩き始めたゼロスは振り返る。


「ん?」

「ありがとう」


寒さのせいではない、赤く染まった頬。


「アンジェちゃんがお礼にキスしてくれたら、俺さま感激。なーんてな」


アンジェは駆け寄って背伸びをする。

精一杯の幸せとありがとうを込めて、頬に口づけをした。

その行動に驚いたのは、冗談でそう言ったゼロスだった。


「なっ……アンジェちゃん!?」

「ありがと。ずっとずっと大事にする」


指に光るソレを見せて、笑みを浮かべた。



貴方は、私だけの王子様。



up 2006/12/24
移動 2016/01/09



 

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