硝子細工の雪景色
雪なんか嫌いだ……。
白さも冷たさも儚さも全て消えてしまえばいい。
全てなくなってしまえばいい。
***
音も無く降り続く白い結晶。
肌を刺す冷たい空気の中、ゼロスはぼんやりと街を見下ろしていた。
「……」
言葉が凍りついたかのように、一度開きかけた口を閉じた。
一人でいるのに、言葉を発しようとする行為はおかしい。
嘲りの笑みが浮かぶ。
「ゼロス?」
背後からかかった声に、驚いた。
……気づかなかった。
「アンジェちゃん……」
隣に並んだのは、最近知り合った少女。
「ゼロス、寒くない?」
白い息と共に空気に舞う声。
「全然寒くないよ〜。俺さまには、世界中のハニー達のあついあつ〜い愛があるから」
「そっか」
真に受けたのか、呆れたのか。
その一言からは、読み取れなかった。
「ゼロス」
「ん?」
「寒い」
「……え?」
肩を出したトップス。その上、短いスカート。
寒くないわけがない。
「アンジェちゃん、宿に戻ろうよ」
『一緒に』ではなく『一人で』というニュアンスを含ませた。
「嫌」
「嫌って……。寒いんでしょ?」
こくりと頷いて告げる。
「じゃあ」
「ゼロスが笑ってくれるまでココにいる」
思わず黙り込んだ。
アンジェと話し始めてから、ずっと笑みを浮かべている。
「俺さま、笑ってるけど?」
「……泣いてる」
次の言葉が、出て来なかった。
「な、んで?」
「ゼロス、笑いたくない時は、笑わないでいいよ」
アンジェの真剣な瞳は、茶化せなかった。
冷たい空気の中へ、体中の空気を出し尽くすかのように、息を吐いた。
「……そういう時の方が、笑ってるべきじゃない?」
「かもね。でもいいじゃない。私といる時くらい」
その言葉に負けたような気がした。
「敵わないな、アンジェちゃんには」
浮かんだのは、苦笑。
それでも、アンジェは嬉しそうに笑った。
「作り物より、ずっとカッコいいよ」
早口にそう言い、アンジェは走って行った。
「……ホント、敵わねーや」
いつもより、ほんの少し速く感じる心臓。
白の世界に、自分の居場所ができたような気がした。
自然と浮かんだ笑みを崩さぬように、歩き始めた。
「ありがとうくらい言うか」
作りモノに見えた世界。
それでも輝いて見えた世界。
好きには見えないその色を、いつか痛む事なく見られるだろうか。
UP 2006/09/25
移動 2016/01/09
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