寂しがりやの午後


チクタクチクタク。

壁にかけられたシンプルな時計が秒針を鳴らす。

静かな室内にはその音が耳障りなほどよく聞こえた。

不快なわけではないが、何やら急かされているようで居心地が悪い。

小さなため息を吐き出して、杏樹はベッドに寝転んだ。

天井を視界から消す。

聞こえてくるのは先ほどと変わらず秒針の音。

けれど、今度はそんなに気にならなかった。

目を閉じたままじっとしていると、意識が睡魔に掴まれる。

ああ、眠たいなと思った時だった。

部屋の戸を叩く音が聞こえた。

一体誰だろうか。

今日は何も予定はなかったはずだ。

自分を訪ねて来そうな人物を軽く想像してから、返事をした。


「よっ!」

「司狼? どうしたの?」

「杏樹ちゃんが暇してるんじゃないかと思って、遊びに来たぜ」


予想外の人物だった。

と言うのも、司狼は今朝食事の席で夕方まで出かけると言っていたから。

帰ってくるにしても早すぎる。

となると……。

杏樹はとりあえず彼を睨んでおいた。


「何か誤解されてるような気がするんだけど……」

「気のせいじゃない? 日頃の行いじゃない?」

「杏樹ちゃん。本音はどっちなわけ?」


ツンとそっぽ向けば、司狼には十分すぎるほど伝わったらしい。

本気で彼を嫌ったりするはずがない。

司狼もそれをわかっているだろう。


「ねえ、司狼」


彼の名前を呼びながら、杏樹は無意識に脇腹へと手をやる。

触れた部分が淡い光を放ったような気がした。


「ん、何だ?」

「私は……守れるかな?」

「杏樹ちゃんは何を守りたいんだよ?」


茶化すわけでも重すぎるトーンでもなく、日常会話のワンシーンのように司狼は問いかけた。


「フライコール。それから、ボスを」

「ボスを守るのは俺らの役目だぜ?」

「二人じゃ足りないでしょ」


司狼が口にした『俺ら』がフライコールの仲間たちではなく、黎明と司狼の二人を指していたから杏樹はため息をついた。

よく気づいたなという驚きを見せた司狼を見ていると、またため息をつきたくなった。


「私は……要らない?」


卑怯な問いかけであることは十分わかっている。

それでも、そう問わずにはいられなかった。


「杏樹ちゃん……しばらく会わないうちに、随分可愛いこと言うようになったな」

「しばらくも何も今朝会ったでしょ。何しみじみ言ってるのよ」


司狼の大きな手がポンポンと杏樹の頭の上を跳ねる。


「杏樹ちゃんは必要さ。フライコールにも、ボスにも、俺にもな」

「じゃあ……くっついてもいい?」

「どうぞ、お姫様の望むままに」


司狼の言葉がいつもの調子だったので、少しだけ泣きたくなった。



寂しがりやの午後



title:ハイフン



(2013/03/15)
(加筆修正→2013/09/18)


 

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